福島県教組事件

福島県教組事件

昭和44年12月18日最高裁判所第一小法廷
ストーリー
 公立学校Yでは、「勤勉手当」を支給していたが、ストライキ期間、欠勤したにもかかわらず、教職員Xらに、給与と勤勉手当の全額を支給したため、教職員Xらに対しそれぞれ過払金の返納を求め、かつ、この求めに応じないときは給与から過払金を減額する旨の通知をしたうえで、それぞれ給与から控除を行った。 教職員Xらは、控除された金額の支払を求めて訴えを提起した。
 

ストライキ期間中の賃金を返還して下さい。

応じないならば、給料から天引きします。

 

「賃金の全額払いの原則」に反します。

労働基準法違反です。

 

 結 論  労働者X敗訴
 賃金の過払いのあった場合、過払のあった時期と賃金の清算調整の実を失わない程度に合理的に接着した時期においてなされ、かつ、労働者の経済生活の安定をおびやかすおそれのない場合には、賃金の「全額払いの原則」には違反しない。

給与の過払い分をその後の給与と相殺することはできるか。

 公立学校Yの行った所論給与減額は、公立学校YがXらに対して有する過払勤勉手当の不当利得返還請求権を自働債権とし、Xらの公立学校Yに対して有する昭和34年2月分または3月分の給与請求権を受働債権としてその対当額においてされた相殺であると解せられる。しかるところ、本件につき適用さるべきものであった労働基準法24条1項では、賃金は、同項但書の場合を除き、その全額を直接労働者に支払わなければならない旨定めており、その法意は、労働者の賃金はその生活を支える重要な財源で日常必要とするものであるから、これを労働者に確実に受領させ、その生活に不安のないようにすることが労働政策上から極めて必要であるとするにあると認められ、従って、右規定は、一般的には、労働者の賃金債権に対しては、使用者は使用者が労働者に対して有する債権をもって相殺することは許されないとの趣旨をも包含すると解せられる。
 
 
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 公立学校Yの行った所論給与減額は、公立学校YがXらに対して有する過払勤勉手当の不当利得返還請求権を自働債権とし、Xらの公立学校Yに対して有する昭和34年2月分または3月分の給与請求権を受働債権としてその対当額においてされた相殺であると解せられる。しかるところ、本件につき適用さるべきものであった労働基準法24条1項では、賃金は、同項但書の場合を除き、その全額を直接労働者に支払わなければならない旨定めており、その法意は、労働者の賃金はその生活を支える重要な財源で日常必要とするものであるから、これを労働者に確実に受領させ、その生活に不安のないようにすることが労働政策上から極めて必要であるとするにあると認められ、従って、右規定は、一般的には、労働者の賃金債権に対しては、使用者は使用者が労働者に対して有する債権をもって相殺することは許されないとの趣旨をも包含すると解せられる。

 
【自働債権】
 相殺を行う場合における「相殺の意思表示をする側」の債権のこと。相殺する側の債権。

【受働債権】
 相殺を行う場合における「相殺される側」の債権のこと。

 
 賃金支払事務においては、一定期間の賃金がその期間の満了前に支払われることとされている場合には、支払日後、期間満了前に減額事由が生じたときまたは、減額事由が賃金の支払日に接着して生じたこと等によるやむをえない減額不能または計算未了となることがあり、あるいは賃金計算における過誤、違算等により、賃金の過払が生ずることのあることは避けがたいところであり、このような場合、これを精算ないし調整するため、後に支払わるべき賃金から控除できるとすることは、右のような賃金支払事務における実情に徴し合理的理由があるといいうるのみならず、労働者にとっても、このような控除をしても、賃金と関係のない他の債権を自働債権とする相殺の場合とは趣を異にし、実質的にみれば、本来支払わるべき賃金は、その全額の支払を受けた結果となるのである。このような事情と前記24条1項の法意とを併せ考えれば、適正な賃金の額を支払うための手段たる相殺は、同項但書によって除外される場合にあたらなくても、その行使の時期、方法、金額等からみて労働者の rkh21B との関係上不当と認められないものであれば、同項の禁止するところではないと解するのが相当である。この⾒地からすれば、許さるべき相殺は、過払のあった時期と賃⾦の清算調整の実を失わない程度に合理的に接着した時期においてされ、また、あらかじめ労働者にそのことが予告されるとか、その額が多額にわたらないとか、要は労働者の経済⽣活の安定をおびやかすおそれのない場合でなければならないものと解せられる。
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 賃金支払事務においては、一定期間の賃金がその期間の満了前に支払われることとされている場合には、支払日後、期間満了前に減額事由が生じたときまたは、減額事由が賃金の支払日に接着して生じたこと等によるやむをえない減額不能または計算未了となることがあり、あるいは賃金計算における過誤、違算等により、賃金の過払が生ずることのあることは避けがたいところであり、このような場合、これを精算ないし調整するため、後に支払わるべき賃金から控除できるとすることは、右のような賃金支払事務における実情に徴し合理的理由があるといいうるのみならず、労働者にとっても、このような控除をしても、賃金と関係のない他の債権を自働債権とする相殺の場合とは趣を異にし、実質的にみれば、本来支払わるべき賃金は、その全額の支払を受けた結果となるのである。このような事情と前記24条1項の法意とを併せ考えれば、適正な賃金の額を支払うための手段たる相殺は、同項但書によって除外される場合にあたらなくても、その行使の時期、方法、金額等からみて労働者の経済生活の安定との関係上不当と認められないものであれば、同項の禁止するところではないと解するのが相当である。この⾒地からすれば、許さるべき相殺は、過払のあった時期と賃⾦の清算調整の実を失わない程度に合理的に接着した時期においてされ、また、あらかじめ労働者にそのことが予告されるとか、その額が多額にわたらないとか、要は労働者の経済⽣活の安定をおびやかすおそれのない場合でなければならないものと解せられる。
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過去問

rkh2906D賃金の過払を精算ないし調整するため、後に支払われるべき賃金から控除することは、「その額が多額にわたるものではなく、しかもあらかじめ労働者にそのことを予告している限り、過払のあった時期と合理的に接着した時期においてされていなくても労働基準法24条l項の規定に違反するものではない。」とするのが、最高裁判所の判例である。
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×

 

労働基準法(第3章-賃金)rkh2906D
適正な賃金の額を支払うための手段たる相殺は、法24条1項ただし書きによって除外される場合にあたらなくても、その行使の時期、方法、金額等からみて労働者の経済生活の安定との関係上不当と認められないものであれば、全額払の原則に違反するものではないとするのが最高裁判所の判例である。

 

rkh2704B過払いした賃金を精算ないし調整するため、後に支払わるべき賃金から控除することは、その金額が少額である限り、労働者の経済生活の安定をおびやかすおそれがないため、労働基準法第24条第1項に違反するものではないとするのが、最高裁判所の判例である。
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×

 

rkh1701B毎月15日に当月の1日から月末までの賃金を支払うこととなっている場合において、月の後半に2日間の欠勤があり賃金を控除する必要が生じたときは、過払いとなる賃金を翌月分の賃金で清算する程度は賃金それ自体の計算に関するものであるから、労働基準法第24条の賃金の支払いに関する規定(賃金全額払の原則)の違反とは認められない。
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rkh1204C最高裁判所の判例によると、適正な賃金の額を支払うための手段たる相殺は、労働基準法第24条第1項ただし書によって除外される場合にあたらなくても、その行使の時期、方法、金額等からみて労働者の経済生活の安定との関係上不当と認められないものであれば同項の禁止するところではないと解されている。
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rks4902B賃金は、その全額を支払わなければならないから、使用者が労働者に対して有する債権をもって賃金債権と相殺することは許されないのが原則であるが、過払賃金の調整的相殺は、その時期、金額等からみて、労働者の経済生活の安定をおびやかさない限りにおいて可能とされる。
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rks4802B賃金は、その全額を支払わなければならないから、使用者が労働者に対して有する債権をもって賃金債権と相殺することは許されないのが原則であるが、過払賃金の調整的相殺は、その時期、金額等からみて、労働者の経済生活の安定をおびやかさない限りにおいて可能とされる。
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rkh21B2 賃金の過払が生じたときに、使用者がこれを精算ないし調整するため、後に支払われるべき賃金から過払分を控除することについて、「適正な賃金の額を支払うための手段たる相殺は、〔…(略)…〕その行使の時期、方法、金額等からみて労働者の rkh21B  との関係上不当と認められないものであれば、同項〔労働基準法第24条第1項〕の禁止するところではないと解するのが相当である」とするのが最高裁判所の判例である。
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経済生活の安定

 

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