労働基準法の全論点集(17)

 

年次有給休暇(2)

年次有給休暇の取得                      

労働者の時季指定権と使用者の時季変更権       

労働者の時季指定権

  • [0695] 使用者は、原則として、有給休暇労働者の請求する時季に与えなければならない。(法39条5項)

使用者の時季変更権

  • [0696] 使用者は、請求された時季に年次有給休暇を与えることが「事業の正常な運営を妨げる」場合においては、他の時季にこれを与えることができる。(法39条5項ただし書)

解雇予定日を超える時季変更権の不行使

  • [0697] 労働者の解雇予定日をこえての年次有給休暇の時季変更は行えない。(昭和49年1月11日基収5554号)

時間単位年休に係る時季変更権の行使

  • [0698] 時間単位年休についても、法39条5項の規定により、使用者の時季変更権の対象となるが、時間単位による取得を請求した場合に日単位に変更することや、日単位の請求を時間単位に変更することは時季変更に当たらず、認められない。(平成21年5月29日基発0529001号)

派遣労働者の場合

  • [0699] 派遣中の労働者の年次有給休暇について、法39条の事業の正常な運営が妨げられるかどうかの「判断」は、派遣元の事業についてなされる。派遣中の労働者が派遣先の事業において就労しないことが派遣先の事業の正常な運営を妨げる場合であっても、派遣元の事業との関係においては事業の正常な運営を妨げる場合に当たらない場合もありうるので、代替労働者の派遣の可能性も含めて派遣元の事業の正常な運営を妨げるかどうかを判断することとなる。(昭和61年6月6日基発333号)

時季変更権と使用者の配慮

  • [0700] 年次休暇権は労働基準法が労働者に特に認めた権利であり、その実効を確保するために付加金及び刑事罰の制度が設けられていること、及び休暇の時季の選択権が第一次的に労働者に与えられていることにかんがみると、同法の趣旨は、使用者に対しできるだけ労働者が指定した時季に休暇を取れるよう状況に応じた配慮をすることを要請しているものとみることができるとするのが最高裁判所の判例である。(昭和62年7月10日最高裁判所第二小法廷弘前電報電話局事件)
  • [0701] 「事業の正常な運営を妨げる場合」か否かの判断に当たって、代替勤務者配置の難易は、判断の一要素となるというべきであるが、特に、勤務割による勤務体制がとられている事業場の場合には、重要な判断要素であることは明らかである。したがって、そのような事業場において、使用者としての通常の配慮をすれば、勤務割を変更して代替勤務者を配置することが客観的に可能な状況にあると認められるにもかかわらず、使用者がそのための配慮をしないことにより代替勤務者が配置されないときは、必要配置人員を欠くものとして事業の正常な運営を妨げる場合に当たるということはできないと解するのが相当であ。そして、年次有給休暇の利用目的は労働基準法の関知しないところであるから、勤務割を変更して代替勤務者を配置することが可能な状況にあるにもかかわらず、休暇の利用目的のいかんによってそのための配慮をせずに時季変更権を行使することは、利用目的を考慮して年次休暇を与えないことに等しく、許されないものであり、この時季変更権の行使は、結局、事業の正常な運営を妨げる場合に当たらないものとして、無効といわなければならないとするのが最高裁判所の判例である。(昭和62年7月10日最高裁判所第二小法廷弘前電報電話局事件)

長期休暇の場合

  • [0702] 労働者長期かつ連続の年次有給休暇を取得しようとする場合、それが長期のものであればあるほど、事業の正常な運営に支障を来す蓋然性が高くなり、事業の正常な運営を確保するため、業務計画、他の労働者の休暇予定等との事前の調整を図る必要が生じ、年次有給休暇の時期、期間につきどの程度の修正、変更を行うかに関しある程度の裁量的判断の余地を使用者に認めざるを得ないが、この裁量的判断が労働者に休暇をとらせるための状況に応じた配慮を欠くなど不合理であると認められるときは、時季変更権の行使は違法であるとするのが最高裁判所の判例である。(平成4年6月23日最高裁判所第三小法廷時事通信社事件)

年次有給休暇の請求が遅い場合

  • [0703] 労働者の年次有給休暇の請求がその指定した休暇期間の始期に極めて接近してなされたため、使用者において時季変更権を行使するか否かを事前に判断する時間的余裕がなかったときは、客観的に時季変更権を行使しうる事由が存し、かつその行使が遅滞なくされれば、その指定した休暇期間の開始後になされたものであっても適法とするのが最高裁判所の判例である。(昭和57年3月18日最高裁判所第一小法廷電電公社此花電報電話局事件)

計画的付与

計画的付与

  • [0704] 使用者は、労使協定により、年次有給休暇を与える時季に関する定めをしたときは、これらの規定による年次有給休暇の日数のうち5日を超える部分については、その定めにより年次有給休暇を与えることができる。(法39条6項)

採用の要件

  • [0705] 使用者は、計画的付与を採用するためには労使協定を締結しなければならない。(法39条6項)

労使協定

  • [0706] 労使協定は、行政官庁届出は不要である。(法39条6項)

5日を超える部分

  • [0707] 年次有給休暇の計画的付与の対象となる年次有給休暇の「5日を超える分」には、「前期からの繰越分を含む。(昭和63年3月14日基発150号)

計画的付与の方法

  • [0708] 年次有給休暇の計画的付与の「方式」としては、①事業場全体の休業による一斉付与方式、②班別の交替制付与方式、③年次有給休暇付与計画表による個人別付与方式等がある。(平成22年5月18日基発0518第1号)

時間単位年休による計画的付与

  • [0709] 時間単位年休は、労働者が時間単位による取得を請求した場合において、労働者が請求した時季に時間単位により年次有給休暇を与えることができるものであり、法39条6項の規定による計画的付与として時間単位年休を与えることは認められない。(平成21年5月29日基発0529001号)

年次有給休暇の権利のない者と一斉付与の関係

  • [0710] 事業場全体の休業による一斉付与の場合、年次有給休暇の権利のない者を休業させれば、その者に、休業手当を支払わなければ法26条違反となる。(昭和63年3月14日基発150号)

計画的付与と時季指定権・時季変更権

  • [0711] 年次有給休暇の計画的付与の場合には、法39条5項の労働者の時季指定権及び使用者の時季変更権はともに行使できない。(平成22年5月18日基発0518第1号)

使用者による時季指定

使用者による時季指定(付与義務)

  • [0712] 使用者は、10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対して、そのうち5日については、基準日から1年以内の期間に、労働者ごとに時季を指定して年次有給休暇を与えなければならない。(法39条7項)
  • [0713] ただし、「労働者の時季指定計画的付与により取得された日数分」については、使用者による時季指定の必要はない。(法39条8項)
  • [0714] 使用者は、労働者に有給休暇を時季を定めることにより与えるに当たっては、あらかじめ、当該有休休暇を与えることを当該労働者に明らかにした上で、その時季について当該労働者の意見を聴かなければならない。(則24条の6第1項)
  • [0715] 使用者は、当該聴取した意見を尊重するよう努めなければならない。(則24条の6第2項)

年次有給休暇管理簿

  • [0716] 「年次有給休暇管理簿」は、法109条に規定する重要な書類として、保存期間が5年間(当分の間は、3年間)とされている「労働者名簿、賃金台帳及び雇入、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類」には該当しないが、保存期間5年間当分の間、3年間)とされており、保存期間の起算日については、賃金台帳等の起算日の規定が準用されている。また、年次有給休暇管理簿は、労働者名簿又は賃金台帳とあわせて調製することができるものとされている。(則24条の7、則附則72条)

罰則の適用

  • [0717] 「使用者による時季指定」の規定に違反した場合は、30万円以下の罰金に処せられる。(法120条1号)

年次有給休暇中の賃金

年次有給休暇中の賃金

  • [0718] 使用者は、年次有給休暇中の賃金として、①平均賃金、②所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金、③健康保険法に定める標準報酬月額の30分の1に相当する金額、のいずれかを支払わなければならない。(法39条9項)

年次有給休暇中の賃金の選択

  • [0719] 年次有給休暇中の賃金のいずれを用いるかは、就業規則その他これに準ずるものに定めることとなる。(平成11年3月31日基発168号)
  • [0720] 健康保険法の標準報酬月額の30分の1に相当する金額を選択するときは、労使協定を行い、年次有給休暇の際の賃金としてこれを就業規則に定めておかなければならない。(平成11年3月31日基発168号)

時間単位年休の場合

  • [0721] 時間単位年休の場合、平均賃金若しくは所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金の額その日の所定労働時間数で除して得た額の賃金又は標準報酬日額その日の所定労働時間数で除して得た金額を、当該時間に応じ支払わなければならない(則25条2項・3項)
  • [0722] ここでいう「その日の所定労働時間数」とは、「時間単位年休を取得した日の所定労働時間数をいう。(平成21年5月29日基発0529001号)
  • [0723] 時間単位年休を取得した時間の賃金について、「平均賃金」「通常の賃金」「標準報酬日額」のいずれを基準とするかについては、日単位による取得の場合と同様としなければならない。(平成21年5月29日基発0529001号)

所定労働時間労働した場合における通常の賃金

  • [0724] 「所定労働時間労働した場合における通常の賃金」の計算方法は次の通りである。(則25条1項)
所定労働時間労働した場合における通常の賃金
  1.  時間給制時給額にその日の所定労働時間数を乗じた金額
  2.  日給制日給額
  3.  週給制週給額をその週における所定労働日数で除した金額
  4.  月給制月給額をその月における所定労働日数で除した金額
  5.  出来高払制…その賃金算定期間において出来高払制その他の請負制によって計算された賃金の総額を当該賃金算定期間における、総労働時間数で除した金額に、当該賃金算定期間における1日平均所定労働時間数を乗じた金額

変形労働時間制の場合

  • [0725] 変形労働時間制を採用していることにより各日の所定労働時間が異なるときは、時給制の労働者に対しては、変形期間における各日の所定労働時間に応じて算定される賃金を支払わなければならない。(昭和63年3月14日基発150号)

罰則の適用

  • [0726] 「年次有給休暇中の賃金の支払い」に違反したときは、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられる。(法119条1号)

年次有給休暇の注意点

年次有給休暇の自由利用

  • [0727] 年次有給休暇をどのように利用するかは、使用者の干渉を許さない「労働者の自由」であるとするのが法の趣旨である。(昭和48年3月2日最高裁判所第二小法廷白石営林署事件)

病気欠勤等への利用

  • [0728] 負傷又は疾病等により長期療養中の者が休業期間中年次有給休暇を請求したときは、年次有給休暇を労働者が病気欠勤等に充用することが許されることから、このような労働者に対して請求があれば年次有給休暇を与えなくてはならない。(昭和24年12月28日基発1456号、昭和31年2月13日基収489号)

休職中の労働者の場合

  • [0729] 休職発令により従来配属されていた所属を離れ、以後は単に会社に籍があるにとどまり、会社に対して全く労働の義務が免除されることとなる場合において、休職発令された者が年次有給休暇を請求したときは、労働義務がない日について年次有給休暇を請求する余地がないことから、これらの休職者は、年次有給休暇請求権の行使ができない。(昭和24年12月28日基発1456号、昭和31年2月13日基収489号)

年次有給休暇と同盟罷業

  • [0730] 労働者がその所属の事業場においてその業務の正常な運営の阻害を目的として一斉に休暇を提出して職場を放棄する場合は、年次有給休暇に名をかりた同盟罷業にほかならないから、それは年次有給休暇権の行使ではない。(昭和48年3月6日基発110号)

他の事業場における争議行為等への年次有給休暇を使用しての参加

  • [0731] 他の事業場における争議行為に休暇をとって参加するような場合は、それを年次有給休暇の行使でないとはいえない。(昭和48年3月6日基発110号)

不可抗力による休日・使用者の責に帰すべき事由による休業の場合

  • [0732] 不可抗力的事由による休業期間又は使用者の責に帰すべき事由による休業期間については、それらの事由によって既に労働義務がなくなる状態が確定しているのであれば、このような日に重ねて労働義務を免除する年次有給休暇をとることは法39条の趣旨とするところではなく、年次有給休暇を与えなくても本条違反とはならない。(コンメンタール39条)

育児休業との関係

  • [0733] 年次有給休暇は労働義務のある日についてのみ請求できるものであるから、「育児休業申出後」には、育児休業期間中の日について年次有給休暇を請求する余地はない。(平成3年12月20日基発712号)
  • [0734] 「育児休業申出前」に育児休業期間中の日について時季指定や労使協力に基づく計画付与が行われた場合には、当該日には年次有給休暇を取得したものと解され、当該日に係る賃金支払日については、使用者に所要の賃金支払の義務が生じる。(平成3年12月20日基発712号)

買上げの予約

  • [0735] 年次有給休暇の買上げの予約をし、これに基づいて法39条の規定により請求し得る年次有給休暇の日数を減じないし請求された日数を与えないことは、法39条違反である。(昭和30年11月30日基収4718号)
  • [0736] 法定を上回る年次有給休暇の日数を超える日数を労使間で協約しているときは、その「超過日数分」については、法39条によらず買上げ等労使間で定めるところによって取扱って差し支えない。(昭和23年10月15日基収3650号)

年次有給休暇の時効

時効

  • [0737] 年次有給休暇の権利の時効は、2年とされており、年次有給休暇をその年度内に全部をとらなかった場合、残りの日数は翌年度に当該日数が繰り越される。(昭和22年12月15日基発501号)

不利益取扱いの禁止

不利益取扱いの禁止

  • [0738] 使用者は、年次有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにしなければならない。(附則136条)
  • [0739] 本条に罰則の定めはない。(法117条~法120条)

不利益取扱い

  • [0740] 労働協約において稼働率80%以下の労働者を賃上げ対象から除外する旨の規定を定めた場合に、当該稼働率の算定に当たり労働基準法又は労働組合法上の権利に基づく不就労を稼働率算定の基礎とすることは、公序に反し無効であるとするのが最高裁判所の判例である。(平成元年12月14日最高裁判所第一小法廷日本シェーリング事件)
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