労働基準法の全論点集(16)

 

年次有給休暇(1)

年次有給休暇

年次有給休暇の付与                     

趣旨

  • [0657] 年次有給休暇の趣旨は、労働者の心身の疲労を回復させ、労働力の維持培養を図るため、また、ゆとりある生活の実現にも資するという位置づけから、休日のほかに毎年一定日数の有給休暇を与えることにある。(コンメンタール39条)

発生要件

  • [0658] 年次有給休暇は、次の要件に該当したときに発生する。(法39条1項)
年次有給休暇の発生要件
  1.  6箇月間継続勤務すること
  2.  全労働日8割以上出勤すること

継続勤務

  • [0659] 「継続勤務」とは、労働契約の存続期間、すなわち在籍期間をいう。継続勤務か否かについては、勤務の実態に即し実質的に判断される。(平成6年3月31日基発181号)

継続勤務に該当する場合

  • [0660] 次の場合には、継続勤務に該当する。(平成6年3月31日基発181号)
継続勤務に該当する場合
  1.  定年退職による退職者を引き続き嘱託等として再採用している場合(退職手当規程に基づき、所定の退職手当を支給した場合を含む)。ただし、退職と再採用との間に相当期間が存し、客観的に労働関係が断続していると認められる場合はこの限りでない。
  2.  解雇予告の適用除外に該当する者(臨時的・短期的に雇用される者)でも、その実態より見て引き続き使用されていると認められる場合
  3.  臨時工が一定月ごとに雇用契約を更新され、6箇月以上に及んでいる場合であって、その実態より見て引き続き使用されていると認められる場合
  4.  在籍型の出向をした場合
  5.  休職とされていた者が復職した場合
  6.  臨時工、パート等を正規職員に切替えた場合
  7.  会社が解散し従業員の待遇等を含め権利義務関係が新会社に包括承継された場合
  8.  全員を解雇し、所定の退職金を支給し、その後改めて一部を再採用したが、事業の実体は人員を縮小しただけで、従前とほとんど変わらず事業を継続している場合(昭和63年3月14日基発150号)

紹介予定派遣

  • [0661] 労働者派遣法の規定によるいわゆる紹介予定派遣により派遣されていた派遣労働者が、引き続いて当該派遣先に雇用された場合には、法39条の年次有給休暇の規定の適用については、当該派遣期間については、年次有給休暇付与の要件である「継続勤務」には該当しない。(昭和63年3月14日基発150号)

全労働日

  • [0662] 「全労働日」とは、労働契約上「労働義務の課せられている日」をいい、具体的には、6箇月間又はその後の各1年間(算定期間)の総暦日数から就業規則その他によって定められた所定の休日を除いた日をいう。(昭和33年2月13日基発90号、昭和63年3月14日基発150号、平成25年7月10日基発0710第3号、コンメンタール39条)
  • [0663] 全労働日」に含めないものには、次のものがある。(昭和33年2月13日基発90号、昭和63年3月14日基発150号、平成21年5月29日基発0529001号、平成25年7月10日基発0710第3号)
全労働日に含めないもの
  1.  所定の休日(当該休日に労働させた日を含む
  2.  不可抗力による休業日
  3.  使用者の責に帰すべき事由による休業日(使用者側に起因する経営、管理上の障害による休業日)
  4.  正当な同盟罷業その他正当な争議行為により労務の提供が全くなされなかった日
  5.  公民権の行使・公の職務執行による休業日
  6.  代替休暇取得日
  • [0664] 無効な解雇の場合のように労働者が使用者から正当な理由なく就労を拒まれたために就労することができなかった日は、労働者の責に帰すべき事由によるとはいえない不就労日であり、このような日は使用者の責に帰すべき事由による不就労日であっても当事者間の衡平等の観点から出勤日数に算入するのが相当でなく全労働日から除かれるべきものとはいえないから、法39条1項及び2項における出勤率の算定に当たっては、出勤日数に算入すべきものとして全労働日に含まれるものというべきである。(平成25年6月6日最高裁判所第一小法廷八千代交通事件) 
  • [0665] 「労働者の責に帰すべき事由によるものとはいえない不就労日」は、原則として全労働日に含めるが、次に掲げる日は、全労働日に含めない。(昭和33年2月13日基発90号、昭和63年3月14日基発150号、平成21年5月29日基発0529001号、平成25年7月10日基発0710第3号)
「労働者の責に帰すべき事由によるものとはいえない不就労日」であるが、全労働日に含めない日
  1.  不可抗力による休業日
  2.  使用者の責に帰すべき事由による休業日(使用者側に起因する経営、管理上の障害による休業日)
  3.  正当な同盟罷業その他正当な争議行為により労務の提供が全くなされなかった日

出勤日

  • [0666] 「出勤日」とは、全労働日のうち実際に出勤した日をいう。(コンメンタール39条)
  • [0667] 実際に出勤した日休日労働日を除く以外に出勤日とされるものには次のものがある。
出勤日とされるもの
  1.  業務上負傷し又は疾病にかかり療養のために休業した期間(法39条10項)
  2.  育児休業介護休業をした期間(法39条10項)
  3.  産前産後の休業をした期間(法39条10項)
  4.  年次有給休暇を取得した日(昭和22年9月13日発基17号、平成6年3月31日基発181号)
  5.  労働者の責に帰すべき事由によるとはいえない不就労日(昭和33年2月13日基発90号、昭和63年3月14日基発150号、平成25年7月10日基発0710第3号)

予定日を遅れての分娩

  • [0668] 6週間以内に出産する予定の女性が、予定の出産日より遅れて分娩し、結果的には産前6週間を超える休業は、全労働日に算入され、出勤したものとみなされる。(昭和23年7月31日基収2675号)

生理休暇

  • [0669] 年次有給休暇算定の基礎となる「出勤日」には、「生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求して就業しなかった期間」は含まれない。(昭和23年7月31日基収2675号、平成22年5月18日基発0518第1号)

年次有給休暇の法的性質

  • [0670] 年次有給休暇の権利は、法39条所定の要件を満たすことによって法律上当然に労働者に生ずる権利であって、労働者の請求をまって始めて生ずるものではないとするのが最高裁判所の判例である。(昭和48年3月2日最高裁判所第二小法廷白石営林署事件)
  • [0671] 労働者がその有する休暇日数の範囲内で、具体的な休暇の始期と終期を特定して時季指定をしたときは、客観的に法39条5項ただし書所定の事由が存在し、かつ、これを理由として使用者が時季変更権の行使をしないかぎり、この指定によって年次有給休暇が成立し、当該労働日における就労義務が消滅するものと解するのが相当である。すなわち、休暇の時季指定の効果は、使用者の適法な時季変更権の行使を解除条件として発生するのであって、年次休暇の成立要件として、労働者による「休暇の請求」や、これに対する使用者の「承認の観念を容れる余地はないとするのが最高裁判所の判例である。(昭和48年3月2日最高裁判所第二小法廷白石営林署事件)

付与日数

付与日数

  • [0672] 年次有給休暇最低付与日数は継続し、又は分割した「10労働日」とされている。(法39条2項)

付与日数の加算

  • [0673] 1年6箇月以上継続勤務した者に対しては、10労働日の休暇日数に加えて6箇月を超え2年6箇月までの勤務年数1年につき1労働日2年6箇月を超える勤務年数1年につき2労働日の休暇が加算される逓増方式がとられている。そして、継続勤務6年6箇月以上の場合は、一律に10労働日を加算することとされていることから、その逓増は、合計休暇日数20日が限度となる(すなわち、0.5年で10労働日、1.5年で11労働日、2.5年で12労働日、3.5年で14労働日、4.5年で16労働日、5.5年で18労働日、6.5年以上で20労働日となる)。(コンメンタール39条)

8割以上出勤しなかった場合

  • [0674] 継続勤務6か月以後についても休暇権発生の要件としての8割出勤が必要とされるため、出勤率が8割に満たない年については年次有給休暇権は発生しない。(コンメンタール39条)

所定労働日数が変更になった場合

  • [0675] 年次有給休暇は「基準日において発生するので、たとえ、基準日の翌日以後において所定労働日数が変更された場合であっても、年次有給休暇の日数は、初めの日数のままである。(昭和63年3月14日基発150号)

退職予定者の場合

  • [0676] 年次有給休暇は、在籍等の一定の要件を満たした場合、権利として当然に発生するため、定年退職を理由として付与日数を減ずることはできない。(昭和63年3月14日基発150号)

労働日

  • [0677] 「労働日」は原則として暦日計算によるべきものであるが、「8時間3交替制」における2日にわたる一勤務及び「常夜勤勤務者の一勤務」については、当該勤務時間を含む継続24時間を1労働日として取扱って差し支えない。(昭和63年3月14日基発150号)

年次有給休暇の斉一的取扱い

  • [0678] 年次有給休暇斉一的せいいつてき取扱いを行っている事業場において、例えば、毎年4月1日を基準日として年次有給休暇を付与している場合に、1月1日入社労働者に4月1日の基準日に労働基準法所定の年次有給休暇を付与する場合には、年次有給休暇の付与要件である「全労働日の8割以上出勤」の算定に当たっては、1月1日から3月31日までの期間については、その期間における出勤の実績により計算し、4月1日から6月30日までの短縮された期間については、全期間出勤したものとみなして計算しなければならない。(平成27年3月31日基発0331第14号)
  • [0679] 労働者各人の採用日が異なるため、年次有給休暇の基準日が異なる場合において、基準日を全労働者につき斉一的に取扱った場合、次年度以降の年次有給休暇の付与日についても、初年度の付与日を法定の基準日から繰り上げた期間と同じ又はそれ以上の期間、法定の基準日より繰り上げなければならない。(平成27年3月31日基発0331第14号)

比例付与

比例付与

  • [0680] 法39条3項の要件を満たしている場合、所定労働日数の少ない労働者等に対しても、年次有給休暇の「比例付与」が行われる。(法39条3項、コンメンタール39条)

比例付与の対象者

  • [0681] 比例付与の対象者は、基準日において、次のいずれかに該当する者である。(法39条3項、則24条の3第1項・4項・5項)
比例付与の対象者
  1.  週所定労働時間30時間未満で、かつ、週所定労働日数4日以下の者
  2.  週所定労働時間30時間未満で、かつ、年間所定労働日数216日以下の者
  • [0682] パートタイム労働者であっても、所定労働日数1週間4日若しくは1年間216日を超える者、又は所定労働日数1週間4日以下若しく1年216日以下の者であっても所定労働時間1週間30時間以上の者については、年次有給休暇の付与日数は、通常の労働者と同じである。(法39条3項、則24条の3第1項・4項・5項)

時間単位年休       

趣旨

  • [0683] 年次有給休暇日単位での取得が原則であるが、平成20年の改正により、まとまった日数の休暇を取得するという年次有給休暇制度本来の趣旨を踏まえつつ、仕事と生活の調和を図る観点から、年次有給休暇を有効に活用できるようにすることを目的として、労使協定により、年次有給休暇について5日の範囲内時間を単位として与えることができることとされた。(平成21年5月29日基発0529001号)
  • [0684] 時間単位年休は、年次有給休暇を有効に活用できるようにすることを目的として、原則となる取得方法である日単位による取得の例外として認められるものであり、1日の年次有給休暇を取得する場合には、原則として時間単位ではなく日単位により取得するものである。(平成21年5月29日基発0529001号)
  • [0685] 年次有給休暇の半日単位による付与については、年次有給休暇の取得促進の観点から、労働者がその取得を希望して時季を指定し、これに使用者が同意した場合であって、本来の取得方法による休暇取得の阻害とならない範囲で適切に運用される限りにおいて、問題がないものとして取り扱うこととしているところであるが、この取扱いに変更はない。(平成21年5月29日基発0529001号)

時間単位年休の選択

  • [0686] 労使協定が締結されている事業場において、個々の労働者が時間単位により取得するか日単位により取得するかは、「労働者の意思による」ものである。(平成21年5月29日基発0529001号)

採用の要件

  • [0687] 使用者は、時間単位年休を採用するためには労使協定により、次の事項について定めをしなければならない。(法39条4項、則24条の4)
締結事項
  1.  時間単位年休対象労働者の範囲
  2.  時間単位年休日数
  3.  時間単位年休1日の時間数
  4.  1時間以外の時間を単位とする場合の時間数

労使協定

  • [0688] 労使協定は、行政官庁届出は不要である。(法39条4項)

時間単位年休の日数

  • [0689] 時間単位年休の日数は、年に「5日以内」である。(法39条4項2号かっこ書)
  • [0690] 当該年度に取得されなかった年次有給休暇の残日数時間数は、次年度に繰り越されることとなるが、当該次年度の時間単位年休の日数は、「前年度からの繰越分も含めて5日の範囲内となる。(平成21年5月29日基発0529001号)

時間単位年休1日の時間数

  • [0691] 1日分の年次有給休暇何時間分の時間単位年休に相当するかについては、当該労働者の所定労働時間数を基に定めることとなるが、所定労働時間数に1時間に満たない時間数がある労働者にとって不利益とならないようにする観点から、則24条の4第1号において、1日の所定労働時間数を下回らないものとされており、労使協定では、これに沿って定める必要がある。具体的には、1時間に満たない時間数については、時間単位に切り上げる必要がある。(平成21年5月29日基発0529001号)
  • [0692] 「1日の所定労働時間数」については、日によって所定労働時間数が異なる場合には1年間における1日平均所定労働時間数となり、1年間における総所定労働時間数が決まっていない場合には所定労働時間数が決まっている期間における1日平均所定労働時間数となる。(平成21年5月29日基発0529001号)

1時間以外の時間を単位とする場合の時間数

  • [0693] 2時間や3時間といったように、1時間以外の時間を単位として時間単位年休を与えることとする場合には、労使協定で、1日の所定労働時間数に満たない範囲内で、その時間数を定めなければならない。(平成21年5月29日基発0529001号)

所定労働時間数が変更となった場合

  • [0694] 年の途中で所定労働時間数に変更があった場合、時間単位年休として取得できる範囲のうち、1日に満たないため時間単位で保有している部分については、当該労働者の1日の所定労働時間の変動に比例して時間数が変更されることとなる。(平成21年10月5日基発1005第1号)
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