労働基準法の全論点集(15)

 

みなし労働時間制

みなし労働時間制                        

みなし労働時間制

みなし労働時間制とは

  • [0625]  「みなし労働時間制」とは、通常の方法による労働時間の算定ではなく、所定労働時間当該業務に通常必要とされる時間労使協定や労使委員会で決議した時間などをもって労働した時間とみなす制度をいう。

みなし労働時間制の種類

  • [0626] みなし労働時間制には、次のものがある。
みなし労働時間制の種類
  1.  事業場外労働のみなし労働時間制(法38条の2)
  2.  専門業務型裁量労働制(法38条の3)
  3.  企画業務型裁量労働制(法38条の4)

休憩、深夜業、休日の規定の適用

  • [0627] みなし労働時間制が適用される場合であっても、休憩深夜業及び休日に関する規定の適用は排除されないため、使用者は労働時間の管理を行わなければならず、また、休日労働や深夜業に対する割増賃金を支払わなければならない。(昭和63年1月1日基発1号、平成12年1月1日基発1号)

年少者又は妊産婦等への不適用

  • [0628] みなし労働時間制に関する規定は、法第4章の労働時間に関する規定の適用に係る労働時間の算定について適用されるものであり、法第6章年少者及び法第6章の2妊産婦等の労働時間に関する規定に係る労働時間の算定については適用されない。(則24条の2第1項、則24条の2の2第1項、則24条の2の3第2項、昭和63年1月1日基発1号、平成12年1月1日基発1号)

事業場外労働のみなし労働制

採用の要件

  • [0629] 労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事し、かつ、使用者の具体的な指揮監督が及ばず労働時間を算定することが困難な場合には、事業場外労働のみなし労働時間制として所定労働時間労働したものとみなされる。(法38条の2第1項)

海外旅行の添乗員の場合

  • [0630] 海外ツアーの添乗業務は、あらかじめ定められた旅行日程に沿った旅程の管理等の業務を行うべきことが具体的に指示されている業務に関する指示および報告の方法内容やその実施の態様状況等によっては労働基準法38条の2第1項の「労働時間を算定し難いときには該当しないため、その場合には、事業場外のみなし労働時間制を適用することはできないとするのが最高裁判所の判例である。(平成26年1月24日最高裁判所第二小法廷阪急トラベルサポート事件)

在宅勤務の場合

  • [0631] 次に掲げるいずれの要件をも満たす形態で行われる「在宅勤務」(労働者が自宅で情報通信機器を用いて行う勤務形態をいう)については、原則として、事業場外労働に関するみなし労働時間制適用される。(平成20年7月28日基発0728002号)
在宅勤務の場合の事業場外労働のみなし労働時間制の要件
  1.  当該業務が、起居寝食等私生活を営む自宅で行われること
  2.  当該情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと
  3.  当該業務が、随時使用者の具体的な指示に基づいて行われていないこと

事業場外労働における労働時間の算定方法①(原則)

  • [0632] 労働時間の全部が事業場外労働の場合には、労働時間の全部をもって所定労働時間労働したものとみなされる。(昭和63年1月1日基発1号)
  • [0633] 労働時間の一部が事業場外労働の場合には、事業場内における労働時間を含めて所定労働時間労働したものとみなされる。(昭和63年1月1日基発1号)

事業場外労働における労働時間の算定方法②(通常所定労働時間を超えて労働することが必要な場合)

  • [0634] 通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合において、その労働時間の全部が事業場外労働のときは、労働時間の全部をもって「通常必要とされる時間労働したものとみなされる。(法38条の2第1項ただし書)
  • [0635] 通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合において、その労働時間の一部が事業場外労働のときは、「事業場内の労働時間通常必要とされる時間を加えた時間労働したものとみなされる。(コンメンタール38条の2)

労使協定の締結

  • [0636] 当該業務を遂行するため、通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合には、当該業務に関しては、当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなされるが、「労使協定を締結し当該業務の遂行に「通常必要とされる時間を定めたときには、当該協定で定める時間労働したものとみなされる。(法38条の2第2項)
  • [0637] 労使協定が締結された場合、労使協定で定める時間が、「当該業務の遂行に通常必要とされる時間」とされる。この場合、労働時間の算定の対象となるのは、「事業場外で業務に従事した部分であり、労使協定についても、この部分について協定する。したがって、事業場内で労働した時間については別途把握しなければならない。すなわち、労働時間の一部を事業場内で労働した日の労働時間は、事業場外労働のみなし労働時間制によって算定される「事業場外で業務に従事した時間」と、「別途把握した事業場内における時間とを加えた時間となる。(昭和63年3月14日基発150号)
  • [0638] 事業場外労働のみなし労働時間制に関する労使協定は、所轄労働基準監督署長に届け出なければならない。(法38条の2第3項、則24条の2第3項)
  • [0639] ただし、労使協定で定める時間が「法定労働時間以下」である場合には、届け出る必要はない。(法38条の2第3項、則24条の2第3項)

専門業務型裁量労働制

対象業務

  • [0640] 専門業務型裁量労働制対象業務19業務)は、次の通りである。(則24条の2の2第2項、平成15年厚労告354号、平成15年10月22日基発1022004号、平成18年2月15日基発0215002号)
専門業務型裁量労働制の対象業務
  1.  新商品若しくは新技術の研究開発又は人文科学若しくは自然科学に関する研究の業務(新技術新商品等の研究開発業務
  2.  情報処理システムの分析又は設計の業務(システムエンジニア
  3.  新聞若しくは出版の事業における記事の取材若しくは編集の業務又は放送番組の制作のための取材若しくは編集の業務(取材編集
  4.  衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務(デザイナー
  5.  放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務(プロデューサーディレクター) 
  6.  コピーライター、システムコンサルタント、インテリアコーディネーター、ゲーム用ソフトウェアの創作、証券アナリスト、金融商品の開発、学校教育法に規定する大学における教授研究(主として研究に従事するものに限る)、公認会計士弁護士、建築士、不動産鑑定士、弁理士、税理士中小企業診断士の各業務
  • [0641] 数人でプロジェクトチームを組んで開発業務を行っている場合、そのチーフの管理の下に業務遂行、時間配分が行われている場合やプロジェクト内に業務に付随する雑用清掃等のみを行う労働者がいる場合、いずれも専門業務型裁量労働制の対象とならない。(平成12年1月1日基発1号)
  • [0642] 「対象業務」とは、業務の性質上その遂行の方法を大幅に当該業務に従事する労働者の裁量にゆだねる必要があるため、当該業務遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をすることが困難なものとして厚生労働省令で定める業務のうち、労働者に就かせることとする業務をいう。(法38条の3第1項1号)

採用の要件

  • [0643] 使用者は、専門業務型裁量労働制を採用するために労使協定により、次の事項について定めをし、労働者を対象業務に就かせたときは、労使協定で定める時間労働したものとみなされる。(法38条の3第1項、則24条の2の2第3項、平成12年1月1日基発1号)
締結事項
  1.  対象業務
  2.  対象業務に従事する労働者の労働時間として算定される1日当たりの労働時間数
  3.  対象業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し、当該対象業務に従事する労働者に対し使用者が具体的な指示をしないこと
  4.  対象業務に従事する労働者の労働時間の状況に応じた当該労働者の健康及び福祉を確保するための措置健康福祉確保措置)を当該協定で定めるところにより使用者が講ずること
  5.  対象業務に従事する労働者からの苦情の処理に関する措置苦情処理措置)を当該協定で定めるところにより使用者が講ずること
  6.  当該協定(労働協約である場合を除く)の有効期間
  7.  労働時間の状況並びに健康・福祉確保措置及び苦情処理措置に関する労働者ごとの記録を保存すること

労使協定

  • [0644] 専門業務型裁量労働制に関する労使協定所轄労働基準監督署長に届け出なければならない。(法38条の3第2項、則24条の2の2第4項)

記録の保存

  • [0645] 使用者は、対象労働者の労働時間の状況健康福祉確保措置及び苦情処理措置に関する労働者ごとの記録労使協定の「有効期間中」及び当該「有効期間の満了後5年間当分の間、3年間)」保存しなければならない。(則24条の2の2第3項2号、則附則72条)

企画業務型裁量労働制

対象業務

  • [0646] 企画業務型裁量労働制対象業務とは、事業の運営に関する事項についての企画立案調査及び分析の業務であって、当該業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があるため、当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務をいう。(法38条の4第1項1号)

採用の要件

  • [0647] 使用者は、企画業務型裁量労働制を採用するためには、事業場に「労使委員会を設置し、当該労使委員会がその委員の5分の4以上の多数による議決により次の事項に関し決議をしたときは、当該決議で定める時間労働したものとみなされる。(法38条の4第1項、則24条の2の3第3項、平成22年5月18日基発0518第1号)
決議事項
  1.  対象業務
  2.  対象労働者の範囲
  3.  対象労働者の労働時間として算定される1日当たりの労働時間数
  4.  対象労働者の労働時間の状況に応じた当該労働者の健康及び福祉を確保するための措置健康福祉確保措置)を当該決議で定めるところにより使用者が講ずること
  5.  対象労働者からの苦情の処理に関する措置苦情処理措置)を当該決議で定めるところにより使用者が講ずること
  6.  使用者は、対象労働者を対象業務に就かせたときは、当該決議で定める時間労働したものとみなすことについて当該労働者の同意を得なければならないこと及び当該同意をしなかった当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないこと
  7.  当該決議の有効期間
  8.  労働時間の状況並びに健康・福祉確保措置、苦情処理措置及び当該労働者から得た同意に関する労働者ごとの記録を保存すること

労働者の同意

  • [0648] 企画業務型裁量労働制を採用する場合には、適用される労働者の同意を得なければならない。(法38条の4第1項6号)

記録の保存

  • [0649] 使用者は、労働時間の状況、健康福祉確保措置苦情処理措置及び当該労働者から得た同意に関する労働者ごとの記録を決議の「有効期間中」及び当該「有効期間の満了後5年間当分の間3年間)」保存しなければならない。(則24条の2の3第3項2号、則附則72条)

決議の届出

  • [0650] 企画業務型裁量労働制に係る労使委員会の決議は、所轄労働基準監督署長に届け出を行わなければ、企画業務型裁量労働制の効力は発生しない。(平成22年5月18日基発0518第1号)

報告

  • [0651] 労使委員会の決議の届出をした使用者は、当該決議が行われた日から起算して6箇月以内ごとに1回、次の事項を所轄労働基準監督署長に報告しなければならない。(法38条の4第4項、則24条の2の5、則附則66条の2)
報告事項
  1.  対象労働者の労働時間の状況
  2.  対象労働者の健康福祉確保措置の実施状況

指針

  • [0652] 厚生労働大臣は、対象業務に従事する労働者の適正な労働条件の確保を図るために、労働政策審議会の意見を聴いて、労使委員会が決議する事項について指針を定め、これを公表するものとする。(法38条の4第3項)

安全配慮義務

  • [0653] 指針によると、対象労働者については、業務の遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだね、使用者が具体的な指示をしないこととなるが、使用者は、このために当該対象労働者について、労働者の生命身体及び健康を危険から保護すべき義務いわゆる安全配慮義務を免れるものではないことに留意することが必要である。(平成15年厚労告353号)

労使委員会

  • [0654] 「労使委員会」とは、賃金労働時間その他の当該事業場における労働条件に関する事項を調査審議し、事業主に対し当該事項について意見を述べることを目的とする委員会(使用者及び当該事業場の労働者を代表する者を構成員とするものに限る)をいう。(法38条の4第1項)

労使委員会の委員

  • [0655] 企画業務型裁量労働制に係る決議を行うことのできる労使委員会の委員の半数については、過半数労働組合(これがない場合は過半数代表者)に厚生労働省令で定めるところにより任期を定めて指名されていなければならない。(法38条の4第2項1号)

議事録の作成及び保存

  • [0656] 労使委員会の議事録の作成及び保存については、使用者は、労使委員会の開催の都度その議事録を作成して、これをその開催の日(決議が行われた会議の議事録にあっては、当該決議に係る書面の完結の日)から起算して 5年間当分の間、3年間保存しなければならない。(則24条の2の4第2項、則附則72条)
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