労働基準法の全論点集(14)
時間外・休日労働(2)
割増賃金
割増賃金
法定労働時間を超えて労働させた場合
- [0576] 使用者が、法33条(災害等又は公務のため臨時の必要がある場合)又は法36条1項(36協定)の規定により法定労働時間(1週40時間又は44時間、1日8時間)を延長して労働させた場合には、「割増賃金」を支払わなければならない。(法37条1項)
所定労働時間が法定労働時間よりも短い場合
- [0577] 所定労働時間が7時間の事業場で法定労働時間8時間まで労働させた場合、所定労働時間外の1時間については、別段の定めがない場合には通常の労働時間の賃金を支払わなければならない(法37条の割増賃金は支払わなくてもよい)。ただし、労働協約、就業規則等によって、その1時間に対し別に定められた賃金額がある場合にはその別に定められた賃金額で差し支えない。(昭和23年11月4日基発1592号)
法定休日に労働させた場合
- [0578] 使用者が、法33条(災害等又は公務のため臨時の必要がある場合)又は法36条1項(36協定)の規定により法定休日に労働させた場合には、「割増賃金」を支払わなければならない。(法37条1項)
- [0579] 週休2日制を採用している事業場が週2日の休日のうち1日のみ出勤させる場合、1週間の労働時間が40時間以内となるのであれば、36協定を締結する必要はなく、割増賃金を支払う必要もない。(昭和63年3月14日基発150号)
- [0580] 「休日」とは、法35条に規定する週1回の休日(変形休日制を含む)をさし、事業場によってこの基準を上回って与えることにしている国民の祝日、会社創立記念日等は含まれない。したがって、これらの休日に出勤させるときは、それによって1週間の労働時間が40時間を超えることとなる場合等を除き、割増賃金を支払う義務はない。
深夜業に従事させた場合
- [0581] 使用者が、深夜業(原則として午後10時から午前5時まで)に労働させた場合には、「割増賃金」を支払わなければならない。(法37条4項)
黙示の指示による労働時間
- [0582] 使用者の明白な超過勤務の指示により、又は使用者の具体的に指示した仕事が、客観的にみて正規の勤務時間内ではなされ得ないと認められる場合のような、超過勤務の黙示の指示によって法定労働時間を超えて勤務した場合には、時間外労働となり、使用者は法37条の割増賃金を支払わなければならない。(昭和25年9月14日基収2983号)
遅刻があった場合
- [0583] 労働者が遅刻をした場合その時間だけ通常の終業時刻を繰り下げて労働させる場合には、1日の実労働時間を通算すれば法32条又は法40条の労働時間を超えないときは、法36条1項に基づく協定及び法37条に基づく割増賃金支払の必要はない。(平成11年3月31日基発168号)
派遣労働者の場合
- [0584] 派遣中の労働者について、法定時間外労働等を行わせるのは派遣先の使用者であり、派遣先の使用者が派遣中の労働者に法定時間外労働等を行わせた場合に、派遣元の使用者が割増賃金の支払義務を負う。この割増賃金の支払は、派遣中の労働者に法定時間外労働等を行わせたという事実があれば法律上生じる義務であり、当該派遣中の労働者に法定時間外労働等を行わせることが労働基準法違反であるかどうか、又は労働者派遣契約上派遣先の使用者に法定時間外労働等を行わせる権限があるかどうかを問わない。(昭和61年6月6日基発333号)
割増賃金を支払わない申し合わせがある場合
- [0585] 法37条は強行規定であり、たとえ労使合意の上で割増賃金を支払わない申し合せをしても、無効である。(昭和24年1月10日基収68号)
法33条又は法36条の手続が行われていない場合
- [0586] 法33条又は法36条に規定する手続を経ずして時間外又は休日労働をさせた場合においても、使用者は、法37条1項に定める割増賃金の支払義務を免れないとするのが最高裁判所の判例である。(昭和35年7月14日最高裁判所第一小法廷小島撚糸事件)
割増賃金の計算の基礎となる賃金
- [0587] 割増賃金の計算の基礎となる賃金は、「通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額」である。(法37条1項)
割増賃金 |
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(割増賃金)=(通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額)×(割増賃金率) |
割増賃金率
- [0588] 「時間外労働」については、使用者は、2割5分以上5割以下の範囲内で政令で定める率(=2割5分)以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。(法37条1項、平成12年6月7日政令309号)
- [0589] 「休日労働」については、使用者は、2割5分以上5割以下の範囲内で定める率(=3割5分)以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。(法37条1項、平成12年6月7日政令309号)
- [0590] 「深夜業」については、使用者は、2割5分以上(法定された率)の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。 (法37条4項)
- [0591] 「時間外労働」が「深夜業」の時間に及んだ場合には、5割以上の割増賃金を支払わなければならない。(則20条1項)
- [0592] 休日労働が8時間を超えた場合であっても、それが深夜業に該当しない限り、休日労働に対する3割5分増の割増賃金のみで差し支えない。(昭和22年11月21日基発366号、平成11年3月31日基発168号)
時間外労働が翌日の所定労働時間に及んだ場合
- [0593] 法36条1項による時間外労働が継続して翌日の所定労働時間に及んだ場合には、翌日の所定労働時間の始期までの超過時間に対して、法37条の割増賃金を支払えば法37条の違反にはならない。(昭和26年2月26日基収3406号、平成11年3月31日基発168号)
時間外労働が翌日の法定休日に及んだ場合
- [0594] 時間外労働が引き続き翌日の法定休日に及んだ場合には、法定休日である日の午前0時から午後12時までの時間帯(0:00~24:00)に労働した部分が休日労働となるため、法定休日の前日の勤務が延長されて法定休日に及んだ場合及び法定休日の勤務が延長されて翌日に及んだ場合のいずれの場合においても、法定休日の日の午前0時から午後12時までの時間帯(0:00~24:00)に労働した部分が3割5分以上の割増賃金の支払いを要する休日労働時間となる。(コンメンタール37条)
1箇月60時間を超える時間外労働
- [0595] 延長して労働させた時間が1箇月について60時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の5割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。(法37条1項ただし書)
- [0596] 中小事業主については、令和5年3月31日までの間、当該5割以上の率で計算した割増賃金を支払うことを要しない。(附則138条)
- [0597] 「中小事業主」とは、その資本金の額又は出資の総額が3億円(小売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については5,000万円、卸売業を主たる事業とする事業主については1億円)以下である事業主及びその常時使用する労働者の数が300人(小売業を主たる事業とする事業主については50人、卸売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については100人)以下である事業主をいう。(附則138条)
1箇月単位の変形労働時間制を採用している場合の時間外労働
- [0598]「1箇月単位の変形労働時間制」を採用した場合に時間外労働となるのは、次の通りである。(平成6年3月31日基発181号)
「1箇月単位の変形労働時間制」における時間外労働 |
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- 「1日」については、所定労働時間が8時間を超える時間を定めた日はその所定労働時間を超えて労働した時間、それ以外の日は8時間を超えて労働した時間
- 「1週間」については、所定労働時間が40時間(44時間)を超える時間を定めた週はその所定労働時間を超えて労働した時間、それ以外の週は40時間(44時間)を超えて労働した時間(1.で時間外労働となる時間を除く)
- 「変形期間」については、変形期間における法定労働時間の総枠を超えて労働した時間(1.又は2.で時間外労働となる時間を除く)
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- [0599] 「1箇月単位の変形労働時間制」において、「休日振替」の結果、就業規則で1日8時間を超える所定労働時間が設定されていない日に、1日8時間を超えて労働させることになる場合には、その「超える時間」は時間外労働となる。(平成6年3月31日基発181号)
- [0600] 「1箇月単位の変形労働時間制」を採用している事業場で、ある週における1日の休日を同じ変形期間中の他の週に振り替えたときは、振替えによって労働日が増えた週の労働時間が40時間を超えることとなったときは、その「超える時間」は時間外労働となる。(平成6年3月31日基発181号)
1年単位の変形労働時間制を採用している場合の時間外労働
- [0601] 「1箇月単位の変形労働時間制」と同様の方法により算定するが、1週間の法定労働時間については、40時間のみとなり、44時間の特例の適用はない。(コンメンタール32条の4)
1週間単位の非定型的変形労働時間制を採用している場合の時間外労働
- [0602] 「1箇月単位の変形労働時間制」と同様の方法(1.及び2.)により算定するが、1週間の法定労働時間については、40時間のみとなり、44時間の特例の適用はない。(コンメンタール32条の5)
フレックスタイム制を採用している場合の時間外労働
- [0603] 「フレックスタイム制」で、清算期間が1箇月以内の場合、清算期間における法定労働時間の総枠を超えて労働した時間が時間外労働時間となる。(コンメンタール32条の3)
- [0604] 「フレックスタイム制」で、清算期間が1箇月を超える場合、次の1.及び2.を合計した時間が時間外労働時間となる。(平成30年12月28基発1228第15号)
フレックスタイム制(清算期間が1箇月を超える場合)の時間外労働時間 |
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- 清算期間を1箇月ごとに区分した各期間における時間外労働時間
- 清算期間における総労働時間のうち、法定労働時間の総枠を超えて労働させた時間(1.で算定された時間を除く)
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除外賃金
除外賃金
- [0605] 割増賃金の算定の基礎となる賃金は、原則として、通常の労働時間又は労働日の賃金であるが、①家族手当、②通勤手当、③別居手当、④子女教育手当、⑤住宅手当、⑥臨時に支払われた賃金、⑦1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金の賃金は除外される。(法37条5項、則21条)
家族手当
- [0606] 扶養家族ある者に対し、その家族数に関係なく一律に支給されている手当は家族手当とはみなさないため、割増賃金の算定の基礎となる賃金に含めなければならない。(昭和22年11月5日基発231号)
住宅手当
- [0607] 住宅の形態ごとに一律に定額で支給することとされているもの、住宅以外の要素に応じて定率又は定額で支給することとされているもの、全員に一律に定額で支給することとされているものは、住宅手当とはみなさないため、割増賃金の算定の基礎となる賃金に含めなければならない。(平成11年3月31日基発170号)
年俸制の場合
- [0608] いわゆる年俸制の適用を受ける労働者の割増賃金について、支給額が確定している賞与は賞与とはみなされないことから、毎月払部分と賞与部分を合計してあらかじめ年俸額が確定している場合の賞与部分は、支給額が確定されていない賃金に該当せず、賞与部分を含めて当該確定した年俸額を算定の基礎として割増賃金を支払う必要がある。(平成12年3月8日基収78号)
危険作業手当
- [0609] 危険作業が法32条及び法40条の労働時間外に及ぶ場合においては、危険作業手当を法37条の割増賃金の基礎となる賃金に算入して計算した割増賃金を支払わなければならない。(昭和23年11月22日基発1681号)
家族手当等の算入
- [0610] 家族手当、通勤手当等、割増賃金の基礎より除外し得るものを算入することは、労働基準法で定める基準は最低であるため、使用者の自由である。(昭和23年2月20日基発297号)
割増賃金の計算基礎となる賃金
割増賃金の計算基礎となる賃金
- [0611] 「通常の労働時間又は通常の労働日の賃金」の計算額は、次の賃金支払形態毎の金額に延長した労働時間数等を乗じた金額とする。(則19条1項)
賃金支払形態 | 通常の労働時間又は通常の労働日の賃金の計算額 |
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時間給 | (時間給) |
日給 | (日給)÷(1日の所定労働時間数) |
日給(日によって所定労働時間数が異なる場合) | (日給)÷(1週間における1日平均所定労働時間数) |
週給 | (週給)÷(週における所定労働時間数) |
週給(週によって所定労働時間数が異なる場合) | (週給)÷(4週間における1週平均所定労働時間数) |
月給 | (月給)÷(所定労働時間数) |
月給(月によって所定労働時間数が異なる場合) | (月給)÷(1年間における1月平均所定労働時間数) |
出来高払制 | (賃金総額)÷(総労働時間数) |
本給部分の支払
- [0612] 法37条が割増賃金の支払を定めているのは当然に通常の労働時間に対する賃金を支払うべきことを前提とするものであるから、月給又は日給の場合であっても、時間外労働についてその労働時間に対する「通常の賃金」を支払わねばならないことはいうまでもない。(昭和23年3月17日基発461号)
- [0613] 賃金が出来高払制その他の請負制によって定められている者が、法36条1項又は法33条の規定によって法定労働時間を超えて労働をした場合、当該法定労働時間を超えて労働をした時間については、使用者は、その賃金算定期間において出来高払制その他の請負制によって計算された賃金の総額を当該賃金算定期間における総労働時間数で除した金額に、当該法定労働時間を超えて労働をした時間数を乗じた金額の2割5分を支払えば足りる。(平成11年3月31日基発168号)
時間外労働手当
- [0614] タクシー料金の月間水揚高に一定の歩合を乗じて賃金を算定・支給する完全歩合給制において、歩合給の額が時間外及び深夜の労働を行った場合においても増額されるものではなく、通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分とを判別することもできないものであったことからして、この歩合給の支給によって、法37条の規定する時間外及び深夜の割増賃金が支払われたとすることは困難なものというべきであり、時間外及び深夜の労働について、割増賃金を支払う義務があるとするのが最高裁判所の判例である。(平成6年6月13日最高裁判所第二小法廷高知県観光事件)
- [0615] 雇用契約においてある手当が時間外労働等に対する対価として支払われるものとされているか否かは、雇用契約に係る契約書等の記載内容のほか、具体的事案に応じ、使用者の労働者に対する当該手当や割増賃金に関する説明の内容、労働者の実際の労働時間等の勤務状況などの事情を考慮して判断すべきであるとするのが最高裁判所の判例である。(平成30年7月19日最高裁判所第一小法廷日本ケミカル事件)
割増賃金に係る代替休暇
趣旨
- [0616] 特に長い時間外労働を抑制することを目的として、1箇月について60時間を超える時間外労働について、法定割増賃金率を引き上げることとされているが、臨時的な特別の事情等によってやむを得ずこれを超える時間外労働を行わざるを得ない場合も考えられる。このため、そのような労働者の健康を確保する観点から、特に長い時間外労働をさせた労働者に休息の機会を与えることを目的として、1箇月について60時間を超えて時間外労働を行わせた労働者について、労使協定により、法定割増賃金率の引上げ分の割増賃金の支払に代えて、有給の休暇を与えることができることとしたものである。(平成21年5月29日基発0529001号)
代替休暇の付与
- [0617] 使用者が、労使協定により、1箇月について60時間を超える時間外労働により割増賃金を支払うべき労働者に対して、当該割増賃金の支払いに代えて、通常の労働時間の賃金が支払われる休暇(年次有給休暇を除く)を厚生労働省令で定めるところにより与えることを定めた場合において、当該労働者が当該休暇を取得したときは、当該労働者の1箇月60時間を超えた時間外労働のうち当該取得した休暇に対応するものとして厚生労働省令で定める時間の労働については、5割以上の率で計算した割増賃金を支払うことを必要としない。(法37条3項)
実施の要件
- [0618] 使用者は、代替休暇を実施するためには、労使協定を締結し、次の事項について定めをしなければならない。(則19条の2第1項)
締結事項 |
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- 代替休暇として与えることができる時間の時間数の算定方法
- 代替休暇の単位
- 代替休暇を与えることができる期間
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労使協定
- [0619] 当該労使協定は、行政官庁に届け出は不要である。(法37条3項)
代替休暇として与えることができる時間の時間数の算定方法
- [0620] 代替休暇として与えることができる時間の時間数の算定方法は次の通りである。(則19条の2第2項)
代替休暇として与えることができる時間の時間数 |
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(代替休暇の時間数)=((1箇月の時間外労働時間数)-60)×(換算率) |
換算率 |
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(換算率)=(労働者が代替休暇を取得しなかった場合に支払うこととされている割増賃金率(5割以上)-(労働者が代替休暇を取得した場合に支払うこととされている割増賃金率(2割5分以上)) |
代替休暇の単位
- [0621] 代替休暇の単位については、まとまった単位で与えられることによって労働者の休息の機会とする観点から、1日又は半日とされており、労使協定では、その一方又は両方を代替休暇の単位として定める必要がある。(平成21年5月29日基発0529001号)
- [0622] 「1日」とは労働者の1日の所定労働時間をいい、「半日」とはその2分の1をいう。「半日」については、必ずしも厳密に1日の所定労働時間の2分の1とする必要はないが、その場合には労使協定で当該事業場における「半日」の定義を定めておかなければならない。(平成21年5月29日基発0529001号)
1日又は半日に達しない場合
- [0623] 代替休暇として与えることができる時間の時間数が労使協定で定めた代替休暇の単位(1日又は半日)に達しない場合であっても、「代替休暇以外の通常の労働時間の賃金が支払われる休暇」と合わせて与えることができる旨を労使協定で定めたときは、当該休暇と代替休暇とを合わせて1日又は半日の休暇を与えることができる。(平成21年5月29日基発0529001号)
代替休暇を与えることができる期間
- [0624] 代替休暇を与えることができる期間は、時間外労働が1箇月について60時間を超えた当該1箇月の末日の翌日から「2箇月以内」としなければならない。(則19条の2第1項3号)