労働基準法の全論点集(13)
時間外・休日労働(1)
時間外・休日労働
災害等による臨時の必要がある場合
災害等による臨時の必要がある場合
- [0534] 災害その他避けることのできない事由によって、臨時の必要がある場合においては、使用者は、所轄労働基準監督署長の許可を受けて、その必要の限度において労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。(法33条1項、則13条1項)
- [0535] ただし、事態急迫のために所轄労働基準監督署長の許可を受ける暇がない場合においては、事後に遅滞なく届け出なければならない。(法33条1項ただし書、則13条1項)
災害許可基準
- [0536] 2020改正災害その他避けることのできない事由とは次のものが該当する。(令和元年6月7日基発0607第1号)
災害その他避けることのできない事由 |
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- 地震、津波、風水害、雪害、爆発、火災等の災害への対応(差し迫った恐れがある場合における事前の対応を含む)、急病への対応その他の人命又は公益を保護するための必要がある場合。
例えば、災害その他避けることのできない事由により被害を受けた電気、ガス、水道等のライフラインや安全な道路交通の早期復旧のための対応、大規模なリコール対応は含まれる。 - 事業の運営を不可能ならしめるような突発的な機械・設備の故障の修理、保安やシステム障害の復旧。
例えば、サーバーへの攻撃によるシステムダウンへの対応は含まれる。 - 上記1.及び2.の基準については、他の事業場からの協力要請に応じる場合においても、人命又は公益の確保のために協力要請に応じる場合や協力要請に応じないことで事業運営が不可能となる場合には、認められる。
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- [0537] 2020改正災害その他避けることのできない事由に該当しないものには次のようなものがある。(令和元年6月7日基発0607第1号)
災害その他避けることのできない事由に該当しないもの |
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- 単なる業務の繁忙その他これに準ずる経営上の必要がある場合
- 通常予見される部分的な修理、定期的な保安
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- [0538] 2020改正許可基準による許可の対象には、災害その他避けることのできない事由に「直接」対応する場合に加えて、当該事由に対応するに当たり、必要不可欠に「付随」する業務を行う場合が含まれる。(令和元年6月7日基監発0607第1号)
- [0539] 2020改正2.の「ライフライン」には、電話回線やインターネット回線等の通信手段が含まれる。(令和元年6月7日基監発0607第1号)
- [0540] 2020改正許可基準に定めた事項はあくまでも例示であり、限定列挙ではなく、これら以外の事案についても「災害その他避けることのできない事由によって、臨時の必要がある場合」となることもあり得る。(令和元年6月7日基監発0607第1号)
派遣労働者の場合
- [0541] 派遣先の使用者は、派遣先の事業場において、災害その他避けることのできない事由により臨時の必要がある場合には、派遣中の労働者に、法定時間外又は法定休日に労働させることができる。この場合に、事前に所轄労働基準監督署長の許可を受け、又はその暇がない場合に事後に遅滞なく届出をする義務を負うのは、派遣先の使用者である。(昭和61年6月6日基発333号)
代休付与命令
- [0542] 事態急迫のために事後の届出があった場合において、行政官庁(所轄労働基準監督署長)がその労働時間の延長又は休日の労働を不適当と認めるときは、その後にその時間に相当する休憩又は休日を与えるべきことを、命ずることができる(代休付与命令)。(法33条2項、則13条1項)
- [0543] 代休付与命令による休憩又は休日は、法26条に規定する使用者の責に帰すべき休業ではないため、休業手当の支払は不要である。(昭和23年6月16日基収1935号)
公務のため臨時の必要がある場合
公務のため臨時の必要がある場合
- [0544] 公務のために臨時の必要がある場合においては、官公署の事業(別表第1に掲げる事業を除く)に従事する国家公務員及び地方公務員については、所轄労働基準監督署長の許可、届出、報告等を行うことなく、労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。(法33条3項、コンメンタール33条)
36協定による場合
労使協定(36協定)
- [0545] 使用者は、「36協定」を締結し、かつ、これを所轄労働基準監督署長に届け出ることにより、法定労働時間を超えて、又は法定休日に労働させることができる。(法36条1項、則16条1項)
労使協定で定める事項
- [0546] 36協定においては、次に掲げる事項を定めなければならない。(法36条2項)
締結事項 |
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- 労働時間を延長し、又は休日に労働させることができることとされる労働者の範囲
- 対象期間(労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる期間をいい、1年間に限る)
- 労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる場合
- 対象期間における1日、1箇月及び1年のそれぞれの期間について労働時間を延長して労働させることができる時間又は労働させることができる休日の日数
- 労働時間の延長及び休日の労働を適正なものとするために必要な事項として厚生労働省令で定める次の事項(ただし、エ.からキ.までの事項については、労使協定に法36条5項に規定する事項に関する定めをしない場合においては、この限りでない)(則17条1項)
ア. 労使協定(労働協約による場合を除く)の有効期間の定め イ.上記4.の1年の起算日 ウ.法36条6項2号及び3号に定める要件(時間外・休日労働の上限)を満たすこと エ.法36条3項の時間外労働の限度時間を超えて労働させることができる場合 オ.限度時間を超えて労働させる労働者に対する健康及び福祉を確保するための措置(※記録の保存) カ.限度時間を超えた労働に係る割増賃金の率 キ.限度時間を超えて労働させる場合における手続 |
労働者の範囲
- [0548] 時間外・休日労働協定の対象となる「業務の種類」及び「労働者数」を協定する。(平成30年9月7日基発0907第1号)
対象期間
- [0549] 「対象期間」とは、36協定により労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる期間をいい、36協定において、1年間の上限を適用する期間を協定する。(平成30年9月7日基発0907第1号)
- [0550] 事業が完了し、又は業務が終了するまでの期間が1年未満である場合においても、36協定の対象期間は「1年間」とする必要がある。(平成30年9月7日基発0907第1号)
限度時間を超えて労働させる労働者に対する健康及び福祉を確保するための措置
- [0551] 使用者は、限度時間を超えて労働させる労働者に対する健康及び福祉を確保するための措置(上記締結事項5.のオ.)の実施状況に関する記録を36協定の「有効期間中」及び当該「有効期間の満了後5年間(当分の間、3年間)」保存しなければならない。(則17条2項、則附則72条)
36協定の更新
- [0552] 36協定を更新しようとするときは、使用者は、「更新する旨の協定」を所轄労働基準監督署長に届け出ることによって、36協定の届出に代えることができる。(則16条3項)
- [0553] 36協定の有効期間について「自動更新」の定めがなされている場合においても、当該協定の更新について「労使両当事者のいずれからも異議の申出がなかった事実を証する書面」を届け出る必要がある。(昭和29年6月29日基発355号)
派遣労働者の場合
- [0554] 派遣労働者を派遣先において36協定により時間外又は休日労働させる場合には、派遣元事業場の使用者が、36協定を締結し、届け出なければならない。(昭和61年6月6日基発333号)
時間外・休日労働義務の発生要件
- [0555] 使用者が、36協定を締結し、これを所轄労働基準監督署長に届け出た場合において、使用者が当該事業場に適用される就業規則に当該36協定の範囲内で一定の業務上の事由があれば労働契約に定める労働時間を延長して労働者を労働させることができる旨定めているときは、当該就業規則の規定の内容が合理的なものである限り、それが具体的労働契約の内容をなすから、この就業規則の規定の適用を受ける労働者は、その定めるところに従い、労働契約に定める労働時間を超えて労働をする義務を負うとするのが最高裁判所の判例である。(平成3年11月28日最高裁判所第一小法廷日立製作所武蔵工場事件)
時間外労働の限度時間
- [0556] 労働時間を延長して労働させることができる時間は、当該事業場の業務量、時間外労働の動向その他の事情を考慮して通常予見される時間外労働の範囲内において、「限度時間」を超えない時間に限られる。(法36条3項)
- [0557] 労働時間を延長して労働させることができる「限度時間」は、原則として、1箇月45時間、1年360時間である。(法36条4項)
1年単位の変形労働時間制の場合の限度時間
- [0558] 1年単位の変形労働時間制(対象期間3箇月超)の場合の限度時間は、1箇月42時間、1年320時間である。(法36条4項かっこ書)
臨時的に限度時間を超えて労働させる必要がある場合
- [0559] 36協定においては、通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に「限度時間」を超えて労働させる必要がある場合に限り、限度時間を超える一定の時間まで労働時間を延長することができる旨を定めることができる。(法36条5項)
- [0560] この場合の限度時間は、次の通りである。(法36条5項)
臨時的な特別の事情がある場合の限度時間 |
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- 1箇月100時間(休日労働時間を含む)未満、1年720時間以内
- 時間外労働が月45時間(対象期間が3箇月を超える1年単位の変形労働時間制の場合は42時間)を超えることができる月数は、1年について6箇月以内(1年につき6回まで)
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36協定における時間外・休日労働の上限
- [0561] 1箇月について時間外労働及び休日労働させた時間は、100時間未満でなければならない。(法36条6項2号)
- [0562] 2箇月から6箇月平均の時間外労働時間及び休日労働時間数の1箇月平均は、80時間以内でなければならない。(法36条6項3号)
上限規制の適用猶予・適用除外
- [0563] 次の事業・業務については、上限規制の適用が猶予又は除外される。
- 建設業務…令和6年3月31日までは、適用猶予(附則139条)
- 自動車運転の業務…令和6年3月31日までは、適用猶予(附則140条)
- 医師…令和6年3月31日までは、適用猶予(附則141条)
- 新技術・新商品等の研究開発業務…適用除外。なお、時間外労働が一定時間を超える場合には、36協定において医師の面接指導、代替休暇の付与等の健康確保措置を定めるように努めなければならない。(法36条11項、平成30年厚労告323号)
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罰則の適用
- [0564] 法36条6項の時間外・休日労働の「上限規定」に違反した場合には、6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられる。(法119条1号) 36協定の締結及び届出をせずに時間外労働及び休日労働をさせた場合には、法32条違反(6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金)に処せられる。(法119条1号)
指針の定め
- [0565] 厚生労働大臣は、労働時間の延長及び休日の労働を適正なものとするため、36協定で定める労働時間の延長及び休日の労働について留意すべき事項、当該労働時間の延長に係る割増賃金の率その他の必要な事項について、労働者の健康、福祉、時間外労働の動向その他の事情を考慮して「指針」を定めることができる。(法36条7項)
指針への適合
- [0566] 36協定をする使用者及び労働組合又は労働者の過半数代表者は、当該協定で労働時間の延長及び休日の労働を定めるに当たり、当該協定の内容が指針に適合したものとなるようにしなければならない。(法36条8項)
指針に関する助言及び指導
- [0567] 所轄労働基準監督署長は、当該指針に関し、36協定をする使用者及び労働組合又は過半数代表者に対し、必要な助言及び指導を行うことができる。(法36条9項)
- [0568] 助言及び指導を行うに当たっては、労働者の健康が確保されるよう特に配慮しなければならない。(法36条10項)
有害業務の制限
有害業務の制限
- [0569] 坑内労働その他厚生労働省令で定める健康上特に有害な業務の労働時間の延長は、1日について2時間を超えてはならない。
36協定との関係
- [0570] 労働時間の延長が2時間を超えてはならない健康上特に有害な業務業務に労働者を従事させる場合においても、36協定を締結し、これを所轄労働基準監督署長に届け出なければならない。(法36条1項)
健康上特に有害な業務
- [0571] 「健康上特に有害な業務」には、坑内労働のほか、次のものが該当する。(則18条)
健康上特に有害な業務 |
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- 多量の高熱物体を取り扱う業務及び著しく暑熱な場所における業務
- 多量の低温物体を取り扱う業務及び著しく寒冷な場所における業務
- ラジウム放射線、エックス線その他の有害放射線にさらされる業務
- 土石、獣毛等のじんあい又は粉末を著しく飛散する場所における業務
- 異常気圧下における業務
- 削岩機、鋲打機等の使用によって身体に著しい振動を与える業務
- 重量物の取扱い等重激なる業務
- ボイラー製造等強烈な騒音を発する場所における業務
- 鉛、水銀、クロム、ひ素、黄りん、フッ素、塩素、塩酸、硝酸、亜硫酸、硫酸、一酸化炭素、二硫化炭素、青酸、ベンゼン、アニリン、その他これに準ずる有害物の粉じん、蒸気又はガスを発散する場所における業務
- 前各号のほか、厚生労働大臣の指定する業務
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1日について2時間(原則)
- [0572] この規定の趣旨は、所定の手続をとる場合においても、坑内労働その他命令で定める健康上特に有害な業務の1日における労働時間数が、1日についての「法定労働時間数」に2時間を加えて得た時間数をこえることを禁止したものである。(平成11年3月31日基発168号)
1日について2時間(休日の場合)
- [0573] 通常の労働日については、原則として最長10時間を限度とする規定であるから、休日についても10時間を超えて労働をさせることを禁止する法意であると解すべきである。(平成11年3月31日基発168号)
1日について2時間(2種の労働がある場合)
- [0574] 「坑内労働等」と「その他の労働」が同一日中に行なわれ、かつ、これら2種の労働の労働時間数の合計が1日についての法定労働時間数をこえた場合においても、その日における「坑内労働等の労働時間数」が1日についての法定労働時間数に2時間を加えて得た時間数をこえないときは、法36条の手続がとられている限り適法である。(平成11年3月31日基発168号)
1日について2時間(変形労働時間制の場合)
- [0575] 「1日について2時間を超えてはならない」とは、必ずしも8時間を超える部分についてのみでなく、変形労働時間制を定める場合は、その特定の日の所定労働時間を超える部分について適用されるものであり、したがって、10時間と定められた日については12時間まで労働させることができる。(昭和22年11月21日基発366号、昭和63年3月14日基発150号、平成11年3月31日基発168号)