労働基準法の全論点集(11)

 

労働時間・休憩・休日(3)

変形労働時間制

フレックスタイム制

フレックスタイム制とは

  • [0440] フレックスタイム制は、労働者日々の始業終業時刻労働時間自ら決めることによって、生活と業務との調和を図りながら効率的に働くことができる制度である。(コンメンタール32条の3)

採用の要件

  • [0441] 使用者は、フレックスタイム制を採用するには、就業規則その他これに準ずるもの及び労使協定において、定めをしなければならない。(法32条の3第1項)
  • [0442] 就業規則その他これに準ずるものには、始業及び終業の時刻を「労働者の決定に委ねる」ことを定めなければならない。(法32条の3第1項)
  • [0443] 労使協定において定める事項は、次の通りである。
締結事項
  1.  対象労働者の範囲(法32条の3第1項1号)
  2.  清算期間3箇月以内の一定期間)(法32条の3第1項2号)
  3.  清算期間の起算日(則12条の2第1項)
  4.  清算期間における総労働時間法32条の3第1項3号)
  5.  標準となる1日の労働時間(則12条の3第1項1号)
  6.  コアタイム又はフレキシブルタイムに制限を設ける場合には、その時間帯の開始及び終了の時刻(則12条の3第1項2号・3号
  7.  清算期間が1箇月を超えるものである場合にあっては、労使協定(労働協約による場合を除く)の有効期間の定め(則12条の3第1項4号)

就業規則その他これに準ずるもの

  • [0444] 就業規則その他これに準ずるものにおける「その他これに準ずるもの」とは、就業規則の作成義務がない常時10人未満の労働者を使用する事業でフレックスタイム制を採用をとる場合を予定したものである。(コンメンタール32条の3)

労働者の決定に委ねること

  • [0445] フレックスタイム制を採用する場合には、就業規則その他これに準ずるものにより、始業及び終業の時刻を労働者の決定にゆだねる旨を定める必要があり、その場合、始業及び終業の時刻の両方」を労働者の決定にゆだねる必要がある。始業時刻又は終業時刻の一方についてのみ労働者の決定にゆだねるのでは足りない。(平成11年3月31日基発168号)
  • [0446] 「始業及び終業の時刻を労働者の決定にゆだねること」の定めをすれば、法89条における就業規則の絶対的記載事項である始業及び終業の時刻を定めたことになる。その場合、コアタイム、フレキシブルタイムを設ける場合には、就業規則においても規定すべきものである。(平成11年3月31日基発168号)

労使協定

  • [0447] 労使協定は、「清算期間が1箇月を超える」場合には所轄労働基準監督署長に届け出なければならない。(則12条の3第2項)
  • [0448] 労使協定には、「清算期間が1箇月を超える」場合には有効期間を定めなければならない。(則12条の3第1項)
  • [0449] 当該労使協定の所轄労働基準監督署長への届け出義務違反に対しては罰則30万円以下の罰金)が設けられている。(法120条1号)

清算期間

  • [0450] フレックスタイム制により労働者が労働すべき期間(清算期間)は、3箇月以内の期間に限られる。(法32条の3第1項2号かっこ書)

清算期間における総労働時間

  • [0451] 清算期間1箇月以内の場合清算期間における総労働時間は、次の式によって計算される時間の範囲内とすることが必要である。(コンメンタール32条の3)
清算期間における総労働時間(清算期間が1箇月以内の場合)
 (清算期間における総労働時間)=(1週間法定労働時間)×(清算期間の暦日数)÷7日
  • [0452] 清算期間1箇月以内フレックスタイム制の場合は、特例事業においては、1週平均44時間を超えない範囲内で定めることができる。(則25条の2第3項)
  • [0453] 清算期間1箇月を超えるフレックスタイム制の場合は、特例事業であっても、1週40時間を超えない範囲内で定めなければならない。(則25条の2第3項)
  • [0454] 清算期間1箇月を超えるフレックスタイム制の場合、上記の計算式(清算期間における総労働時間(清算期間が1箇月以内の場合))の範囲内であることに加え、清算期間その開始日以後1箇月ごとに区分した各期間ごとに当該各期間の1週間平均の労働時間が50時間を超えない範囲内とする必要がある。(法32条の3第2項)

1週間の所定労働日数が5日(完全週休2日制)の労働者の特例

  • [0455] 1週間の所定労働日数が5日完全週休2日制)の労働者については、労使協定により、清算期間における法定労働時間の総枠を当該「清算期間における所定労働日数×8時間とする旨を定めたときは、1週間当たり「清算期間における所定労働日数×8時間÷清算期間における暦日数÷7」により得た時間を超えない範囲内で労働させることができる。(法32条の3第3項)
1週間の所定労働日数が5日(完全週休2日制)の労働者の特例
 (1週間当たりの労働時間の限度)=(清算期間における所定労働日数×8)÷(清算期間における暦日数÷7)

標準となる1日の労働時間

  • [0456] 「標準となる1日の労働時間」は、フレックスタイム制のもとにおいて、年次有給休暇を取得した際に支払われる賃金の算定基礎となる労働時間等となる労働時間の長さを定めるものである。(コンメンタール32条の3)

フレキシブルタイム・コアタイム

  • [0457] フレックスタイム制を採用する場合における労使協定において、コアタイム及びフレキシブルタイムを定めるかどうかは「任意」である。(則12条の3第1項2号・3号、コンメンタール32条の3)

フレックスタイム制における労働時間の把握と通知

  • [0458] フレックスタイム制の場合にも、使用者労働時間の把握義務がある。(昭和63年3月14日基発150号)
  • [0459] 清算期間が1箇月を超える場合には、対象労働者が自らの各月の時間外労働時間数を把握しにくくなることが懸念されるため、使用者は、対象労働者の各月の労働時間数の実績を対象労働者に通知等することが望ましい。(平成30年9月7日基発0907第1号)

派遣労働者に対するフレックスタイム制

  • [0460] 派遣労働者派遣先においてフレックスタイム制の下で労働させる場合には、派遣元の使用者は、次のことを行う必要がある。(昭和63年1月1日基発1号)
  1.  派遣元事業場の就業規則その他これに準ずるものにより、始業及び終業の時刻を派遣労働者の決定にゆだねることを定める。
  2.  派遣元事業場において労使協定を締結し、所要の事項について協定すること。
  3.  労働者派遣契約において当該労働者をフレックスタイム制の下で労働させることを定めること。

休憩時間の設定

  • [0461] フレックスタイム制の場合であっても、休憩は、労働基準法上の規定通りに与えなければならない一斉休憩が必要な場合には、「コアタイム」中に休憩時間を定めるようにしなければならない。(昭和63年3月14日基発150号)
  • [0462] 休憩時間を一斉に与える必要がない事業場でフレックスタイム制を採用する場合には、休憩時間をとる時間帯を労働者にゆだねようとするときには、就業規則において、各日の休憩時間の長さを定めるとともに、それをとる時間帯は労働者にゆだねる旨の規定をおけばよく、これらのことをフレックスタイム制に係る労使協定の中に定めておくことは必ずしも必要ない。(昭和63年3月14日基発150号)

労働時間の過不足の繰越し

  • [0463] 清算期間における実際の労働時間に「過剰」があった場合に、総労働時間として定められた時間分はその期間の賃金支払日に支払うが、それを超えて労働した時間分を次の清算期間中の総労働時間の一部に充当するこは、その清算期間内における労働の対価の一部がその期間の賃金支払日に支払われないことになり、法24条賃金の全額払の原則に違反する。(昭和63年1月1日基発1号)
  • [0464] 清算期間における実際の労働時間に「不足」があった場合に、総労働時間として定められた時間分の賃金はその期間の賃金支払日に支払うが、それに達しない時間分を次の清算期間中の総労働時間に上積みして労働させることは、法定労働時間の総枠の範囲内である限り、その清算期間においては実際の労働時間に対する賃金よりも多く賃金を支払い、次の清算期間でその分の賃金の過払を清算するものと考えられ、法24条に違反するものではない。(昭和63年1月1日基発1号)

1年単位の変形労働時間制

1年単位の変形労働時間制とは

  • [0465] 1年単位の変形労働時間制とは、業務に繁閑のある事業場において、繁忙期に長い労働時間を設定し、かつ、閑散期に短い労働時間を設定することにより効率的に労働時間を配分して、年間の総労働時間の短縮を図る制度である。(コンメンタール32条の4)

採用の要件

  • [0466] 使用者は、1年単位の変形労働時間制を採用するには、労使協定において、定めをしなければならない。(法32条の4第1項)
  • [0467] 労使協定において定める事項は、次の通りである。
締結事項
  1.  対象となる労働者の範囲(法32条の4第1項1号)
  2.  対象期間1箇月を超え1年以内の期間に限る)(法32条の4第1項2号)
  3.  対象期間の起算日(則12条の2第1項)
  4.  特定期間(法32条の4第1項3号)
  5.  対象期間における労働日及び当該労働日ごとの労働時間(法32条の4第1項4号)
  6.  労使協定(労働協約による場合を除く)の有効期間の定め(則12条の4第1項)

労使協定

  • [0468] 労使協定は、所轄労働基準監督署長に届け出なければならない。(法32条の4第4項)
  • [0469] 労使協定には、有効期間を定めなければならない。(則12条の4第1項)
  • [0470] 労使協定の所轄労働基準監督署長への届け出義務違反に対しては罰則30万円以下の罰金)が設けられている。(法120条1号)

対象期間

  • [0471] 対象期間は、1箇月を超え1年以内であれば、9箇月、10箇月でもよい。つまり、1年間を通じて変形労働時間制を採用することもできれば、1年間の一定期間の時期についてのみ適用することもできる。(コンメンタール32条の4)

特定期間

  • [0472] 特定期間は、対象期間中の特に業務が繁忙な期間について設定することができるとする法の趣旨に沿った期間にすることが必要であり、対象期間中の相当部分を特定期間とすることはこの趣旨に反するものである。(平成11年1月29日基発45号)

対象期間における労働日及び当該労働日ごとの労働時間

  • [0473] 1年単位の変形労働時間制においては、対象期間における労働日及び労働日ごとの労働時間特定しておかなければならない。(法32条の4第1項4号)
  • [0474] 「労働日を特定する」ということは、反面、休日を特定することとなるため、休日について「7月から9月までの間に、労働者の指定する3日間について休日を与える」のように、変形期間開始後にしか休日が特定できない場合には、労働日が特定されたことにはならない。(平成6年5月31日基発330号)
  • [0475] 対象期間における総労働時間は、次の式によって計算された時間(対象期間における所定労働時間の総枠の範囲内とすることが必要である。(平成6年1月4日基発1号、平成27年3月31日基発0331第14号、コンメンタール32条の4)
対象期間における所定労働時間の総枠
 (対象期間における所定労働時間の総枠)=(40時間)×(対象期間の暦日数)÷7日

複数の変形労働時間制

  • [0476] 適用対象労働者を明確に区分し、それぞれ所定の手続に従って労使協定を締結し、所轄労働基準監督署長に届け出た場合には、1年単位の変形労働時間制について、1つの事業場で「対象労働者の異なる複数の制度を採用することができる。(平成6年5月31日基発330号)

対象期間途中での変更

  • [0477] 1年単位の変形労働時間制に関する「労使協定」事項中に、「甲・乙双方が合意すれば、協定期間中であっても変形制の一部を変更することがある。」旨が明記されていたとしても、対象期間の途中で変更することはできない。(平成6年3月31日基発181号)

労働日数及び労働時間等の限度

  • [0478] 厚生労働大臣は、労働政策審議会の意見を聴いて、対象期間における「労働日数の限度並びに「1日及び1週間の労働時間の限度並びに「対象期間及び労使協定で特定期間として定められた期間における連続して労働させる日数の限度を定めることができる。(法32条の4第3項)

「労働日数」の限度 

  • [0479] 労働日数の限度は、次の通りである。(則12条の4第3項)
対象期間労働日数の限度
1年280日
3箇月を超え1年未満280日×対象期間の暦日数/365
3箇月以内限度なし

「労働時間」の限度①(原則)

  • [0480] 1日」労働時間の限度は、10時間である。(則12条の4第4項)
  • [0481] 1週間」労働時間の限度は、52時間である。(則12条の4第4項)

「労働時間」の限度②(対象期間が3箇月を超える場合)

  • [0482] 対象期間が3箇月を超える場合には、次の要件のいずれにも該当しなければならない。(則12条の4第4項)
対象期間が3箇月を超える場合の労働時間の限度
  1.  対象期間において、その労働時間48時間を超える週数連続して3以下であること。
  2.  対象期間をその初日から3箇月ごとに区分した各期間(3箇月未満の期間を生じたときは、当該期間)において、その労働時間が48時間を超える週の初日の数3以下であること。
  • [0483] なお、「その労働時間が48時間を超える週の初日の数」については、区分した各期間における最後の週の末日が当該各期間に属する日でない場合であっても、当該週の労働時間が48時間を超えるのであれば、当該週の初日がここにいう初日として取り扱われる。(平成11年1月29日基発45号)

「労働時間」の限度③(隔日勤務のタクシー運転手の場合)

  • [0484] 隔日勤務のタクシー運転者ハイヤー運転手を除く)については、当分の間、1年単位の変形労働時間制における1日の労働時間の限度は、則12条の4第4項の規定にかかわらず、16時間とされている。(則附則66条)

「労働時間」の限度④(積雪地域の場合)

  • [0485] 積雪の度が著しく高い地域として厚生労働大臣が指定する地域に所在する事業場において、冬期に当該地域における事業活動の縮小を余儀なくされる事業として厚生労働大臣が指定する事業に従事する労働者であって、屋外で作業を行う必要がある業務であって業務の性質上冬期に労働者が従事することが困難であるものとして厚生労働大臣が指定する業務に従事するものについては、対象期間が3箇月を超える場合であっても、当分の間、1年単位の変形労働時間制における1日労働時間の限度10時間とし、1週間労働時間の限度52時間とする。(則附則65条)

「連続労働日数」の限度

  • [0486] 対象期間における連続労働日数の限度は、6日である。(則12条の4第5項)
  • [0487] 対象期間中の「特定期間」における連続労働日数の限度は、1週間に1日の休日が確保できる日数12日)である。(則12条の4第5項)

対象期間を1箇月以上の期間ごとに区分する場合

  • [0488] 1年単位の変形労働時間制を採用する場合において、労使協定により、対象期間を1箇月以上の期間ごとに区分することとしたときは、次の通りとなる。
対象期間を1箇月以上の期間ごとに区分した場合
  1.  使用者は、当該区分による各期間のうち「最初の期間における労働日と当該労働日ごとの労働時間」を特定、当該「最初の期間以外の期間における労働日数総労働時間を定めることができる。(法32条の4第1項4号かっこ書)
  2.  当該最初の期間以外の各期間の初日少なくとも30日前までに、当該事業場の過半数労働組合又は過半数代表者の同意を得て、当該労働日数を超えない範囲内において当該各期間における労働日及び当該総労働時間を超えない範囲内において当該各期間における労働日ごとの労働時間を定めなければならない。(法32条の4第2項)
  • [0489] 最初の期間以外の各期間の労働日及び労働日ごとの労働時間の特定は、書面により行わなければならない。(則12条の4第2項)

途中退職者等に対する賃金の精算

  • [0490] 1年単位の変形労働時間制を採用する事業場において、対象期間の途中で退職した場合など1年単位の変形労働時間制で労働した期間が当該対象期間よりも短い労働者については、労働した期間を平均して1週間当たり40時間を超えた時間(法33条又は法36条1項の規定により延長し、又は休日に労働させた時間を除く)に対し、法37条1項割増賃金の規定の例により割増賃金を支払わなければならない。(法32条の4の2)

1週間単位の非定型的変形労働時間制               

1週間単位の非定型的変形労働時間制とは

  • [0491] 1週間単位の非定型的変形労働時間制とは、日ごとの業務に著しい繁閑が生じることが多く、かつ、その繁閑が定型的に定まっていない場合に、1週間を単位として、一定の範囲内で、就業規則その他これに準ずるものによりあらかじめ特定することなく、1日の労働時間を10時間まで延長することを認めることにより、労働時間のより効率的な配分を可能とし、全体としての労働時間を短縮しようとするものである。(昭和63年1月1日基発1号)

対象事業場

  • [0492] 1週間単位の非定型的変形労働時間を採用することができる事業は、常時使用する労働者数30人未満小売業旅館料理店又は飲食店の事業である。(則12条の5第1項・2項)

採用の要件

  • [0493] 1週間単位の非定型的変形労働時間制を採用するには、労使協定を締結しなければならない。(法32条の5第1項)
  • [0494] 1週間の各日の労働時間を、あらかじめ労働者に通知しなければならない。(法32条の5第2項)

労使協定

  • [0495] 労使協定は、所轄労働基準監督署長届け出なければならない。(法32条の5第3項)
  • [0496] 有効期間の定めは不要である。(則12条の5)

労働時間の限度

  • [0497] 1日の労働時間の限度は、10時間である。(法32条の5第1項)
  • [0498] 1週間の所定労働時間を40時間以内において定めなければならない。(法32条の5第1項、法25条の2)
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