労働時間・休憩・休日(2)
労働時間
労働時間
労働時間の定義
- [0402] 「労働」とは、一般的に、使用者の指揮監督のもとにあることをいい、必ずしも現実に精神又は肉体を活動させていることを要件とはしない。(コンメンタール32条)
- [0403] 労働時間の取扱いは、次の通りである。
労働時間となる | 労働時間とならない |
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使用者による労働時間の管理義務
- [0404] 労働基準法は、労働時間、休日、深夜業等について使用者の遵守すべき基準を規定しており、これを遵守するためには、使用者は、労働時間を適正に把握する必要があることなどから、労働時間を適切に管理する責務を有している。(平成29年1月20日基発0120第3号)
- [0405] 使用者は、労働時間を適正に把握するため、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、これを記録する。(平成29年1月20日基発0120第3号)
- [0406] 使用者が行う始業・終業時刻の確認及び記録の原則的な方法としては、使用者が自ら現認することにより確認し、適正に記録すること又はタイムカード、ICカード等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録することが求められている。(平成29年1月20日基発0120第3号)
労働時間の概念
- [0407] 法32条の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではないとするのが最高裁判所の判例である。(平成12年3月9日最高裁判所第一小法廷三菱重工業長崎造船所事件)
- [0408] 労働者が、就業を命じられた「業務の準備行為等」を事業所内において行うことを使用者から義務づけられ、又はこれを余儀なくされたときは、当該行為を所定労働時間外において行うものとされている場合であっても、当該行為は、特段の事情のない限り、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができ、当該行為に要した時間は、それが社会通念上必要と認められるものである限り、労働時間に該当するとするのが最高裁判所の判例である。(平成12年3月9日最高裁判所第一小法廷三菱重工業長崎造船所事件)
- [0409] 実作業に従事していない仮眠時間が労働基準法上の労働時間に該当するか否かは、労働者が実作業に従事していない仮眠時間において使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものというべきであるとするのが最高裁判所の判例である。(平成14年2月28日最高裁判所第一小法廷大星ビル管理事件)
法定労働時間
法定労働時間
- [0410] 使用者は、原則として、労働者に、休憩時間を除き、「1週間」について40時間、「1日」について8時間を超えて、労働させてはならない。(法32条1項)
- [0411] 法定労働時間の規定に違反した場合には、6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられる。(法119条1号)
1週間
- [0412] 「1週間」とは、就業規則その他に別段の定めがない限り、日曜日から土曜日までのいわゆる暦週をいう。(昭和63年1月1日基発1号)
1日
- [0413] 「1日」とは、午前0時から午後12時までのいわゆる暦日をいうものであるが、継続勤務が2暦日にわたる場合には、たとえ暦日を異にする場合でも1勤務として取り扱い、当該勤務は始業時刻の属する日の労働として、当該日の「1日」の労働とする。(昭和63年1月1日基発1号)
法定労働時間の特例
- [0414] 使用者は、商業、映画・演劇業(映画の製作の事業を除く)、保健衛生業及び接客娯楽業のうち常時10人未満の労働者を使用するものについては、法32条の規定にかかわらず、「1週間」について44時間、「1日」について8時間まで労働させることができる。(則25条の2第1項)
10人未満の労働者
- [0415] 法定労働時間の特例措置などにおける事業規模を決める場合の労働者には、継続的に当該事業場で労働している者を、労働者数に入れる。(昭和63年3月14日基発150号)
時間計算
事業場を異にする場合
- [0416] 労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。(法38条1項)
- [0417] 「事業場を異にする場合」には事業主を異にする場合をも含まれる。(昭和23年5月14日基発769号)
- [0418] 2021改正労働時間の通算についての取扱いについては、次の通りである。(令和2年9月1日基発0901第3号)
労働時間が通算して適用される規定 |
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- [0419] 2021改正労働時間が通算されない制度については、次の通りである。(令和2年9月1日基発0901第3号)
労働時間が通算されない規定 |
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- [0420] 2021改正労働時間の通算については、それぞれ次の通りに取り扱う。(令和2年9月1日基発0901第3号)
労働時間を通算管理する使用者 | 副業・兼業を行う労働者を使用する全ての使用者(労働時間が通算されない場合として掲げられている業務等に係るものを除く)は、法38条1項の規定により、それぞれ、自らの事業場における労働時間と他の使用者の事業場における労働時間とを通算して管理する必要がある。 |
通算される労働時間 | 法38条1項の規定による労働時間の通算は、自らの事業場における労働時間と労働者からの申告等により把握した他の使用者の事業場における労働時間とを通算することによって行う。 労働者からの申告等がなかった場合には労働時間の通算は要せず、また、労働者からの申告等により把握した他の使用者の事業場における労働時間が事実と異なっていた場合でも労働者からの申告等により把握した労働時間によって通算していれば足りる。 |
基礎となる労働時間制度 | 法38条1項の規定による労働時間の通算は、自らの事業場における労働時間制度を基に、労働者からの申告等により把握した他の使用者の事業場における労働時間と通算することによって行う。 週の労働時間の起算日又は月の労働時間の起算日が、自らの事業場と他の使用者の事業場とで異なる場合についても、自らの事業場の労働時間制度における起算日を基に、そこから起算した各期間における労働時間を通算する。 |
通算して時間外労働となる部分 | 自らの事業場における労働時間と他の使用者の事業場における労働時間とを通算して、自らの事業場の労働時間制度における法定労働時間を超える部分が、時間外労働となる。 |
割増賃金の負担義務
- [0421] 労働時間の通算の結果、時間外労働に該当するに至る場合は、割増賃金を支払わなければならないことはいうまでもないが、この場合、時間外労働についての法所定の手続をとり、また割増賃金を負担しなければならないのは、当該労働者と時間的に後で労働契約を締結した事業主である。(コンメンタール38条)
- [0422] 2021改正割増賃金の支払義務については、次の通りである。(令和2年9月1日基発0901第3号)
割増賃金の支払義務 |
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各々の使用者は、自らの事業場における労働時間制度を基に、他の使用者の事業場における所定労働時間・所定外労働時間についての労働者からの申告等により、
それぞれの事業場での所定労働時間・所定外労働時間を通算した労働時間を把握し、その労働時間について、自らの事業場の労働時間制度における法定労働時間を超える部分のうち、自ら労働させた時間について、時間外労働の割増賃金(法37条1項)を支払う必要がある。 |
坑内労働の場合
- [0423] 坑内労働については、労働者が坑口に入った時刻から坑口を出た時刻までの時間を、「休憩時間を含め」労働時間とみなす。(法38条2項)
- [0424] 坑内労働においては、坑口に入った時刻からそれを出た時刻までが休憩時間も含めて労働時間とみなされるため、休憩時間の「自由利用の原則」や、「一斉付与の原則」は適用されないこととなっている。(法38条2項ただし書)
変形労働時間制
変形労働時間制
変形労働時間制の概要
- [0425] 「変形労働時間制」とは、使用者が労働時間を弾力的に運用する制度であり、法定労働時間を超えない範囲内で、特定の日又は週に法定労働時間を超えて労働させることができる制度をいう。(コンメンタール序論4)
- [0426] 変形労働時間制の種類には、次のものがある。
変形労働時間制の種類 |
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育児等を行う者等に対する配慮
- [0427] 使用者は、1箇月単位の変形労働時間制、1年単位の変形労働時間制又は1週間単位の非定型的変形労働時間制により労働者に労働させる場合には、育児を行う者、老人等の介護を行う者、職業訓練又は教育を受ける者その他特別の配慮を要する者については、これらの者が育児等に必要な時間を確保できるような配慮をしなければならない。(則12条の6)
1箇月単位の変形労働時間制
1箇月単位の変形労働時間制とは
- [0428] 1箇月単位の変形労働時間制とは、通常の賃金計算期間が1箇月であることなどから、1箇月以内の期間において繁閑の差がある業務についての労働時間の弾力化をいう。(コンメンタール32条の2)
採用の要件
- [0429] 使用者は、1箇月単位の変形労働時間制を採用するためには、労使協定を締結するか、又は就業規則その他これに準ずるものに定めをしなければならない。(法32条の2第1項)
- [0430] 労使協定又は就業規則その他これに準ずるもので定める事項は次の通りである。
主な締結事項 |
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労使協定
- [0431] 労使協定により採用する場合には、当該労使協定は、所轄労働基準監督署長に届け出なければならない。(法32条の2第2項、則12条の2の2第2項)
- [0432] 当該労使協定には、有効期間を定めなければならない。(則12条の2の2第1項)
- [0433] 当該労使協定の所轄労働基準監督署長への届け出義務違反に対しては罰則(30万円以下の罰金)が設けられている。(法120条1号)
就業規則その他これに準ずるもの
- [0434] 常時10人以上の労働者を使用する事業場には、法89条で就業規則の作成義務があるため、1箇月単位の変形労働時間制をとる場合は、労使協定を締結する場合を除き、就業規則で定めなければならない(「その他これに準ずるもの」で定めることはできない)。(昭和22年9月13日発基17号)
変形期間における総労働時間
- [0435] 変形期間における総労働時間は、次の式によって計算される時間の範囲内とすることが必要である。(平成9年3月25日基発195号、コンメンタール32条の2)
変形期間における総労働時間=(1週間の法定労働時間(40時間・44時間))×(変形期間の暦日数)÷7 |
- [0436] 特例事業場においては、1週平均44時間を超えない範囲内で「1箇月単位の変形労働時間制」を採用することができる。(則25条の2第2項)
労働時間の特定
- [0437] 1箇月単位の変形労働時間制が適用されるためには、単位期間内の各週、各日の所定労働時間を就業規則等において特定する必要があり、労働協約又は就業規則において、「業務の都合により変形期間を平均して1週40時間の範囲内で就業させることがある」旨が定められていても、変形労働時間制を適用する要件が具備されているものとはいえないとするのが、最高裁判所の判例である。(平成14年2月28日最高裁判所第一小法廷大星ビル管理事件、平成11年3月31日基発168号)
列車等に乗務する労働者で予備勤務者の場合
- [0438] 使用者は、運輸交通業において列車、気動車又は電車に乗務する労働者で予備の勤務に就くものについては、1箇月以内の一定の期間を平均し1週間当たりの労働時間が40時間を超えない限りにおいて、1箇月単位の変形労働時間の規定にかかわらず、1週間について40時間、1日について8時間を超えて労働させることができる。(則26条)
勤務ダイヤによる1箇月単位の変形労働時間制
- [0439] 勤務ダイヤによる1箇月単位の変形労働時間制を採用する場合、各人ごとに、就業規則においてできる限り具体的に労働時間を特定すべきものであるが、業務の実態から月ごとに勤務割を作成する必要があるときには、就業規則において各直勤務の始業終業時刻、各直勤務の組合せの考え方、勤務割表の作成手続及びその周知方法等を定めておき、それにしたがって各日ごとの勤務割は、変形期間の開始前までに具体的に特定することで足りる。(昭和63年3月14日基発150号)