労働基準法の全論点集(8)

 

賃金の支払(2)

賃金の支払

賃金支払5原則

賃金支払5原則

  • [0284] 賃金の支払方法について、①通貨払の原則、②直接払の原則、③全額払の原則、④毎月1回以上払の原則、⑤一定期日払原則が定められている。(法24条)

通貨払の原則

通貨払の原則

  • [0285] 賃金は、原則として、通貨で支払わなければならない。(法24条1項)
  • [0286] 通貨払の原則の趣旨は、貨幣経済の支配する社会では最も有利な交換手段である通貨による賃金支払を義務づけ、これによって、価格が不明瞭で換価にも不便であり弊害を招くおそれが多い実物給与を禁じることにある。(コンメンタール24条)

通貨払の例外

  • [0287] 次のいずれかに該当する場合には、通貨以外のもので支払うことができる。(法24条1項)
賃金払の例外
  1.  法令に別段の定めがある場合(現在は定めなし
  2.  労働協約に別段の定めがある場合
  3.  厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合
  • [0288] 労働者に対して、労働協約によらずして物又は利益が供与された場合において、それを賃金とみるか否かについては、実物給与に関する法の趣旨及び実情を考慮することとなっている。(昭和22年12月9日基発452号)

労働協約に別段の定めがある場合

  • [0289] 事業場の過半数の労働者で組織する労働組合が使用者と締結した労働協約の定めによって通貨以外のもので賃金を支払うことが許されるのは、その労働協約の適用を受ける労働者に限られる。(昭和63年3月14日基発150号)
  • [0290] 通貨以外のもので支払われる賃金の評価額は、法令に別段の定めがある場合の外、労働協約に定めなければならない。(則2条2項)

厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合

  • [0291] 使用者は、労働者の「同意」を得た場合には、次の方法で支払うことができる。(則7条の2)
労働者の同意を得た場合の通貨払の例外
  1.  労働者指定する本人名義の金融機関の預金貯金への振込み
  2.  労働者指定する金融商品取引業者への払込み
  3.  退職手当の場合は、1.及び2.のほか、金融機関を支払人とする小切手の交付金融機関が支払保証をした小切手の交付普通為替証書定額為替証書の交付の方法によることができる。
  • [0292] 今般、新規・成長企業等と投資者をインターネット上で結び付け、多数の者から少額ずつ資金を集める仕組みである、いわゆる「クラウドファンディング」であって一定の要件を満たすものを「第一種少額電子募集取扱業務」と法律上位置付け、第一種少額電子募集取扱業務のみを行う第一種少額電子募集取扱業者については、「第一種金融商品取引業を行う者に含まれることとなった。第一種少額電子募集取扱業者は、証券会社等、これまでの第一種金融商品取引業を行う者に比べて資産の安全性が高くなく労働者の賃金の払込み先としてはふさわしくないと考えられるため、則7条の2第1項2号に規定する第一種金融商品取引業を行う者から「第一種少額電子募集取扱業者を除く」こととした。(平成27年5月28日基発0528第7号)

同意

  • [0293] 則7条の2における「同意」については、労働者の意思に基づくものである限り、その形式は問わないため、書面による必要はない。(昭和63年1月1日基発1号)

指定

  • [0294] 則7条の2第1項における「指定」とは、労働者が賃金の振込み対象として銀行その他の金融機関に対する当該労働者本人名義の預貯金口座を指定するとの意味であって、この指定が行われれば則7条の2第1項の同意が特段の事情のない限り得られているものと解される。(昭和63年1月1日基発1号)

直接払の原則

直接払の原則

  • [0295] 賃金は、直接労働者に支払わなければならない。(法24条1項)
  • [0296] 労働者の親権者その他の法定代理人支払うこと、労働者の委任を受けた任意代理人支払うことは、いずれも法24条違反となり、労働者が第三者に賃金受領権限を与えようとする委任代理等の法律行為は無効である。(昭和63年3月14日基発150号)
  • [0297] 直接払の原則は事業主が労働者個々人にじかに賃金を手渡すことを要求するものではないから、係長等に支払事務の補助を命じ、これらの者をして事業主のために労働者に賃金を手渡させることは、これらの者が使用者の立場において行うものであるため許される。(コンメンタール24条)
  • [0298] 派遣中の労働者の賃金を派遣先の使用者を通じて支払うことについては、派遣先の使用者が、派遣中の労働者本人に対して、派遣元の使用者からの賃金を手渡すことだけであれば、直接払の原則には違反しない。(昭和61年6月6日基発333号)
  • [0299] 行政官庁国税徴収法の規定に基づいて行った差押処分に従って、使用者が労働者の賃金を控除のうえ当該行政官庁に納付することは、いわゆる直接払の原則に抵触しない。(コンメンタール24条)

直接払の例外

  • [0300] 直接払の原則には、例外認められていない。ただし、労働者が病気欠勤中であるときなどに使者労働者の妻子等に対して賃金を支払うことは差し支えない。(昭和63年3月14日基発150号)
  • [0301] 労働者は民法の原則に従い、自己の賃金債権を第三者に譲渡することができるが、賃金債権が譲渡された場合であっても、譲受人への支払は法24条直接払の原則違反となるので、使用者は譲渡人たる労働者に対して支払わなければならないとするのが最高裁判所の判例である。(昭和43年3月12日最高裁判所第三小法廷小倉電話局事件)

全額払の原則

全額払の原則

  • [0302] 賃金は、原則として、その全額労働者に支払わなければならない。(法24条1項)
  • [0303] 全額払の原則の趣旨は、使用者が一方的に賃金を控除することを禁止しもって労働者に賃金の全額を確実に受領させ、労働者の経済生活を脅かすことのないようにしてその保護を図ろうとするものというべきであるとするのが最高裁判所の判例である。(昭和48年1月19日最高裁判所第二小法廷シンガー・ソーイング・メシーン事件)

全額払の例外

  • [0304] 次の場合には、賃金一部を控除して支払うことができる。(法24条1項)
全額払の例外
  1.  法令に別段の定めがある場合(所得税等の源泉徴収社会保険料等の控除など)
  2.  労使協定行政官庁への届出不要)がある場合(購買代金社宅費用労働組合費社内預金等の控除など)

端数の取扱い①(遅刻、早退、欠勤等の場合)

  • [0305] 労働者5分遅刻した場合に、30分遅刻したものとして賃金カットをするという処理は、労務の提供のなかった限度を超えるカット(25分についてのカット)について法24条の賃金の全額払の原則に反し違法であるが、このような取扱いを就業規則に定める減給の制裁として法91条の制限内で行う場合には、法24条の賃金の全額払の原則に反しない。(昭和63年3月14日基発150号)

端数の取扱い②(1箇月当たりにおける時間数の端数)

  • [0306] 「1箇月」における時間外労働、休日労働及び深夜業の各々の時間数の合計に1時間未満の端数がある場合に、30分未満の端数を切り捨てそれ以上を1時間に切り上げることは法24条及び法37条違反とはしない。(昭和63年3月14日基発150号)

端数の取扱い③(1時間当たりにおける端数)

  • [0307] 「1時間」当たりの賃金額及び割増賃金額に円未満の端数が生じた場合、50銭未満の端数を切り捨てそれ以上を1円に切り上げることは法24条及び法37条違反とはしない。(昭和63年3月14日基発150号)

端数の取扱い④(1箇月当たりの割増賃金の端数)

  • [0308] 「1箇月」における時間外労働、休日労働及び深夜業の各々の割増賃金の総額に1円未満の端数が生じた場合に、50銭未満の端数を切り捨てそれ以上を1円に切り上げることは法24条及び法37条違反とはしない

端数の取扱い⑤(1箇月の賃金支払額における端数)

  • [0309] 「1箇月の賃金支払額(賃金の一部を控除して支払う場合には、控除した額)に100円未満の端数が生じた場合、50円未満の端数を切り捨てそれ以上を100円に切り上げ支払うことは法24条違反とはしない。(昭和63年3月14日基発150号)
  • [0310] 「1箇月の賃金支払額(賃金の一部を控除して支払う場合には、控除後の額)に生じた1,000円未満の端数を翌月の賃金支払日に繰り越して支払うことは法24条違反とはしない。(昭和63年3月14日基発150号)

全額払の原則と不法行為

  • [0311] 「全額払の原則」は、労働者の賃金債権に対しては、使用者は、使用者が労働者に対して有する債権をもって相殺することを許されないとの趣旨を包含するものと解するのが相当であるが、このことは、不法行為を原因としたものであっても変わりはないとするのが最高裁判所の判例である。(昭和36年5月31日最高裁判所大法廷日本勧業経済会事件)

賃金の過払いがあった場合(調整的相殺)

  • [0312] 適正な賃金の額を支払うための手段たる相殺は、法24条1項ただし書によって除外される場合にあたらなくても、その行使の時期、方法、金額等からみて労働者の経済生活の安定との関係上不当と認められないものであれば、全額払の原則に違反するものではない。したがって、賃金の過払いのあった場合、過払のあった時期と賃金の清算調整の実を失わない程度に合理的に接着した時期においてなされ、かつ、労働者の経済生活の安定をおびやかすおそれのない場合には、賃金の「全額払いの原則には違反しな。(昭和44年12月18日最高裁判所第一小法廷福島県教組事件)

合意による相殺があった場合

  • [0313] 労働者がその自由な意思に基づき当該相殺に同意した場合において、当該同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときは、いわゆる賃金の全額払の原則に違反するものとはいえないものと解するのが相当であるとするのが最高裁判所の判例である。(平成2年11月26日最高裁判所第二小法廷日新製鋼事件)

退職金の減額があった場合

  • [0314] 退職後の同業他社への就職をある程度の期間制限することは、直ちに社員の職業の自由等を不当に拘束するものとは認められない一定の要件の下、競業避止規定を設けることはできる)。退職金功労報償的な性格をあわせもつことから、「同業他社に就職した退職社員に対する退職金を半額とする」ことも合理性のない措置とはいえないとするのが最高裁判所の判例である。(昭和52年8月9日最高裁判所第二小法廷三晃社事件)

チェック・オフ協定①

  • [0315] チェックオフ協定の締結は、これにより、同協定に基づく使用者のチェック・オフが賃金全額払の原則の例外とされ、労働基準法所定の罰則の適用を受けないという効力を有するにすぎないとするのが最高裁判所の判例である。(平成5年3月25日最高裁判所第一小法廷エッソ石油事件)

チェック・オフ協定②

  • [0316] チェック・オフ協定は、労働協約の形式により締結された場合であっても、当然に「使用者」がチェック・オフをする権限を取得するものでないことはもとより、「組合員」がチェック・オフを受忍すべき義務を負うものではないとするのが最高裁判所の判例である。(平成5年3月25日最高裁判所第一小法廷エッソ石油事件) 

チェック・オフ協定③

  • [0317] チェックオフも、労働基準法24条の全額払の原則の規制に服することとなるので、「労使協定」の締結を要するとするのが最高裁判所の判例である。(平成元年12月1日最高裁判所第二小法廷済生会中央病院事件)

チェック・オフ協定④

  • [0318] 労働組合の規約により組合員の納付すべき組合費月を単位として「月額」で定められている場合には、組合員が月の途中で組合から脱退したときでも、特別の規定又は慣行等のない限り、その月の組合費の全額を納付する義務を免れないものというべきであり、脱退した日までの分を日割計算によって納付すれば足りると解することはできないとするのが最高裁判所の判例である。(昭和50年11月28日最高裁判所第三小法廷国労広島地本事件)

賞与の在籍日支給

  • [0319] 賞与を支給日に在籍している者に対してのみ支給する旨のいわゆる「賞与支給日在籍要件を定めた就業規則の規定は合理的理由を有し有効であり、支給日の直前に退職した労働者に賞与を支給しないことは、賃金全額払の原則に違反しないとするのが最高裁判所の判例である。(昭和57年10月7日最高裁判所第一小法廷大和銀行事件)

賃金債権の放棄があった場合

  • [0320] 賃金全額払の原則は、労働者が退職に際し自ら賃金債権を放棄する旨の意思表示の効力を否定する趣旨ではない。したがって、退職金債権放棄の意思表示は、それが労働者の自由な意思に基づくものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときは有効とするのが最高裁判所の判例である。(昭和48年1月19日最高裁判所第二小法廷シンガー・ソーイング・メシーン事件)

出張・外勤拒否があった場合

  • [0321] 業務命令によって指定された時間その指定された出張外勤業務に従事せず内勤業務に従事したことは、債務の本旨に従った労務の提供をしたものとはいえず、また、使用者は、本件業務命令を事前に発したことにより、その指定した時間については出張・外勤以外の労務の受領をあらかじめ拒絶したものと解すべきであるから、労働者が提供した内勤業務についての労務を受領したものとはいえず、したがって、使用者は、労働者に対しその時間に対応する賃金の支払義務を負うものではないとするのが最高裁判所の判例である。(昭和60年3月7日最高裁判所第一小法廷水道機工事件)

ストライキ期間中の賃金削減

  • [0322] ストライキ期間中の賃金削減の対象となる部分の存否及びその部分と賃金削減の対象とならない部分の区別は、労働協約等の定め又は労働慣行の趣旨に照らし個別的に判断するのが相当であるとするのが、最高裁判所の判例である。(昭和56年9月18日最高裁判所第二小法廷三菱重工業長崎造船所事件)

毎月1回以上払の原則及び一定期日払の原則

毎月1回以上払の原則及び一定期日払の原則

  • [0323] 賃金は、毎月一回以上一定の期日を定めて支払わなければならない。(法24条2項)

毎月1回以上払・一定期日払の例外

  • [0324] 次の賃金については、毎月1回以上一定の期日を定めて支払わなくてもよい。(法24条2項ただし書、則8条)
毎月1回以上払・一定期日払の例外
  1.  臨時に支払われる賃金
  2.  賞与
  3.  厚生労働省令で定める賃金

  ア. 1箇月を超える期間の出勤成績によって支給される精勤手当
  イ. 1箇月を超える一定期間の継続勤務に対して支給される勤続手当
  ウ. 1箇月を超える期間にわたる事由によって算定される奨励加給又は能率手当

賞与の意義

  • [0325] 「賞与」とは、定期又は臨時に、原則として労働者の勤務成績に応じて支給されるものであって、その支給額が予め確定されていないものをいう。(昭和22年9月13日発基17号)
  • [0326] 定期的に支給されかつその支給額が確定しているものは、名称の如何にかかわらず、これを賞与とみなさない。(昭和22年9月13日発基17号)

一定の期日を定めて

  • [0327] 「一定の期日」は、期日が特定されるとともに、その期日が周期的に到来するものでなければならない。必ずしも、月の「15日」あるいは「10日及び20日」等と暦日を指定する必要はない。月給について「月の末日」、週給について「土曜日」等とすることは差し支えない。(コンメンタール24条)
  • [0328] 「毎月15日から20日までの間」等のように日が特定しない定めをすること、あるいは、「毎月第2土曜日」のように月7日の範囲で変動するような期日の定めをすることは法24条違反となる。(コンメンタール24条)

所定支払日が休日の場合

  • [0329] 賃金の所定支払日が「休日」に当たる場合には、その支払日を繰り上げる又は繰り下げる)ことを定めるのは、一定期日払に違反しない。(コンメンタール24条)

年俸制の場合

  • [0330] 年俸制の場合であっても、賃金は毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。(法24条2項)
  • [0331] 年俸制の場合において、年俸額の12分の1ずつを毎月支払う必要はない。(法24条2項)

非常時払  

非常時払

  • [0332] 使用者は、労働者出産疾病災害その他厚生労働省令で定める非常の場合の費用に充てるために請求する場合においては、支払期日前であっても既往の労働に対する賃金を支払わなければならない。(法25条)

非常の場合

  • [0333] 厚生労働省令で定める非常の場合」とは、次に掲げるものである。(則9条)
非常の場合
  1.  労働者の収入によって生計を維持する者出産し、疾病にかかり、又は災害をうけた場合
  2.  労働者又はその収入によって生計を維持する者結婚し、又は死亡した場合
  3.  労働者又はその収入によって生計を維持する者がやむを得ない事由により1週間以上にわたって帰郷する場合

賃金の保障

休業手当  

休業手当

  • [0334] 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上休業手当を支払わなければならない。(法26条)
  • [0335] 休業手当は民法の一般原則が労働者の最低生活保障について不充分である事実に鑑み、強行法規で平均賃金の100分の60までを保障せんとする趣旨の規定である。(昭和22年12月15日基発502号)
  • [0336] 休業手当の制度は、労働者生活保障という観点から設けられたものである。(昭和62年7月17日最高裁判所第二小法廷ノース・ウエスト航空事件)

休業

  • [0337] 休業手当の支払義務の対象となる「休業」とは、労働者労働契約に従って労働の用意をなし、しかも労働の意思をもっているにもかかわらず、その給付の実現が拒否され、又は不可能となった場合をいうから、この「休業」には、事業の全部又は一部が停止される場合にとどまらず、特定の労働者に対してその意思に反して就業を拒否するような場合も含まれる。(コンメンタール26条)

休日の休業手当

  • [0338] 休業手当は、民法536条2項によって全額請求し得る賃金の中、平均賃金の100分の60以上を保障しようとする趣旨のものであるから、労働協約、就業規則又は労働契約により休日と定められている日については、休業手当を支給する義務は生じない。(昭和24年3月22日基収4077号)

所定労働時間が短く定められている日の場合

  • [0339] 法26条は、使用者の責に帰すべき休業の場合においては、その休業期間中平均賃金の100分の60以上の休業手当を支払わなければならないと規定しており、従って一週の中、ある日の所定労働時間が「たまたま短く」定められていても、その日の休業手当は平均賃金の100分の60に相当する額支払わなければならない。(昭和27年8月7日基収3445号)

一部休業の場合

  • [0340] 一日の所定労働時間の「一部」のみについて使用者の責に帰すべき事由による休業がなされた場合であっても、当該一日について平均賃金の100分の60以上に相当する金額が支払われなくてはならないから、現実に就労した時間に対して支払われる賃金が平均賃金の100分の60に相当する金額に満たない場合には、使用者はその差額を支払わなければならない。(昭和27年8月7日基収3445号)

派遣労働者に対する休業手当

  • [0341] 派遣中の労働者の休業手当について、法26条の使用者の責に帰すべき事由があるかどうかの判断は、派遣元使用者についてなされる。したがって、派遣先の事業場が、天災地変等の不可抗力によって操業できないために、派遣されている労働者を当該派遣先の事業場で就業させることができない場合であっても、それが使用者の責に帰すべき事由に該当しないこととは必ずしもいえず、派遣元の使用者について、当該労働者を他の事業場に派遣する可能性等を含めて判断し、その責に帰すべき事由に該当しないかどうかを判断することになる。(昭和61年6月6日基発333号)

使用者の責に帰すべき事由

  • [0342] 「使用者の責に帰すべき事由に該当するものには、次のものがある。(コンメンタール26条)
使用者の責に帰すべき事由
  1.  親工場の経営難からの休業(昭和23年6月11日基収1998号)
  2.  原材料資材不足事業設備の不備による休業 など
  • [0343] 「使用者の責に帰すべき事由に該当しないものには、次のものがある。(コンメンタール26条)
使用者の責に帰すべき事由に該当しないもの
  1.  天災事変等の不可抗力による休業
  2.  作業所閉鎖ロックアウト)による休業(社会通念上正当と認められるものに限る)(昭和23年6月17日基収1953号)
  3.  休電による休業(昭和26年10月11日基発696号)
  4.  労働安全衛生法による健康診断の結果による休業(昭和63年3月14日基発150号)
  5.  労働安全衛生法によるボイラーの検査のための休業 
  6.  法33条2項に基づく代休命令による休業(昭和23年6月16日基収1935号)

一部ストが行われた場合

  • [0344] 労働組合が争議をしたことにより同一事業場の当該「労働組合員以外の労働者」の一部が労働を提供し得なくなった場合にその程度に応じて労働者を休業させることは差し支えないが、その限度を超えて休業させた場合には、その部分については法26条の「使用者の責に帰すべき事由による休業に該当する。(昭和24年12月2日基収3281号)

解雇予告なしに解雇した場合

  • [0345] 使用者の法に対する無関心のために、予告することなく労働者を解雇し、労働者もこれを有効であると思い、離職後相当日数を経過して他の事業場に勤務し、相当日数経過後当該事実が判明した場合について、解雇の意思表示が解雇の予告として有効と認められ、かつ、その解雇の意思表示があったために予告期間中労働者が休業した場合は、使用者は、解雇が有効に成立するまでの期間」休業手当を支払わなければならない。(昭和24年7月27日基収1701号)

中間利益との関係

  • [0346] 使用者の責めに帰すべき事由によって解雇された労働者解雇期間中他の職に就いて利益中間利益)を得たときは、使用者は、当該期間の賃金を支払うに当たり当該利益の額を賃金額から控除することができるが、法26条(休業手当)の平均賃金の6割に達するまでの部分については利益控除の対象とすることが禁止されているものと解するのが相当であるとするのが最高裁判所の判例である。(昭和62年4月2日最高裁判所第一小法廷あけぼのタクシー事件)
  • [0347] 使用者が労働者に対して有する解雇期間中の賃金支払債務のうち平均賃金額の6割を超える部分から当該賃金の支給対象期間と時期的に対応する期間内に得た中間利益の額を控除することは許されるものと解すべきであり、利益の額平均賃金額の4割を超える場合には、更に平均賃金算定の基礎に算入されない賃金臨時に支払われた賃金3箇月を超える期間ごとに支払われる賃金)の全額」を対象として利益額を控除することが許されるものと解せられるとするのが最高裁判所の判例である。(昭和62年4月2日最高裁判所第一小法廷あけぼのタクシー事件)

出来高払制の保障給

出来高払制の保障給

  • [0348] 出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない。(法27条)
  • [0349] 出来高払制の保障給を定めた法27条の趣旨は、出来高払制その他の請負制で使用される労働者の賃金については、労働者が就業した以上は、たとえその出来高が少ない場合も、労働した時間に応じて一定額の保障を行うべきことを使用者に義務づけたものである。(コンメンタール27条)
  • [0350] 出来高払制の保障給は、労働時間に応じた一定額のものでなければならない。したがって、1時間につきいくらと定める時間給であることを原則とし、労働者の実労働時間の長短と関係なく単に1か月について一定額を保障するもののごときは、法27条の保障給ではない。(コンメンタール27条)

労働者が就業しなかった場合

  • [0351] 労働者が就業しなかった場合、それが労働者の責によるものであるときは、使用者には賃金支払の義務はないから、法27条の保障給も当然支払うことを要しない。(昭和23年11月11日基発1639号)

使用者の責に帰すべき事由による休業の場合

  • [0352] 休業が使用者の責に帰すべき事由によるときは、休業手当の規定が適用されるので、使用者が法27条によって出来高制の保障給を支払う必要はない。(コンメンタール27条)

保障給の額

  • [0353] 法27条は労働者の責に基づかない事由によって、実収賃金が低下することを防ぐ趣旨であるから、労働者に対し、常に通常の実収賃金と余りへだたらない程度の収入が保障されるように保障給の額を定めるべきである。(昭和22年9月13日発基17号、昭和63年3月14日基発150号)
  • [0354] 保障給の額については規定はないが、大体の目安としては、休業の場合についても法26条(休業手当)が平均賃金の100分の60以上の手当の支払を要求していることからすれば、労働者が現実に就業している本条の場合については、少なくとも平均賃金の100分の60程度を保障することが妥当と思われる。(コンメンタール27条)
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