賃金の支払(1)
賃金に係る定義
賃金の定義
賃金とは
- [0246] 「賃金」とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。(法11条)
- [0247] 家族手当、物価手当等、一見労働とは直接関係がないような名称であっても労働の対償として使用者が労働者に支払うものである以上は、賃金である。(コンメンタール11条)
任意的、恩恵的に支払われるもの
- [0248] 退職手当、結婚祝金、死亡弔慰金、災害見舞金等の任意的、恩恵的に支払われるものは、原則として、賃金とされない。(コンメンタール11条)
あらかじめ支給条件が明確な場合の退職手当等
- [0249] 労働協約、就業規則、労働契約等によって「予め支給条件が明確である」場合の退職手当、結婚祝金、死亡弔慰金、災害見舞金等は法11条の賃金であり、法24条第2項の「臨時に支払われる賃金(臨時の賃金等)」に当たる。(昭和22年9月13日発基17号)
実物給与(現物給与)
- [0250] 実物給与(現物給与)については、労働者より代金を徴収するものは、原則として賃金ではないが、その徴収金額が実際費用の3分の1以下であるときは、徴収金額と実際費用の3分の1との差額部分については、賃金とみなされる。(昭和22年12月9日基発452号)
通勤手当、通勤定期乗車券
- [0251] 通勤手当等及び通勤乗車券は賃金に該当する。(昭和33年2月13日基発90号)
チップ
- [0252] チップは、旅館従業員等が客から受け取るものであって賃金には該当しない。(昭和23年2月3日基発164号)
事業主負担の社会保険料等
- [0253] 労働者が法令により負担すべき所得税等(健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料等を含む)を事業主が労働者に代って負担する場合は、これらの労働者が法律上当然生ずる義務を免れるのであるから、この事業主が労働者に代って負担する部分は賃金とみなされる。(昭和63年3月14日基発150号)
食事の供与
- [0254] 食事の供与(労働者が使用者の定める施設に住み込み、1日に2食以上支給を受けるような特殊の場合を除く)については、その支給のための代金を徴収すると否とを問わず、次の要件を満たす限り、原則として福利厚生とし、賃金として取り扱わない。(昭和30年10月10日基発644号)
食事の供与を賃金としない要件 |
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住宅の貸与
- [0255] 住宅の貸与は、原則として福利厚生施設である(賃金ではない)。(コンメンタール11条)
- [0256] 社宅の貸与を受けない者に定額の均衡手当が支払われている場合には、その評価額を限度として社宅貸与の利益を賃金として取り扱う。(コンメンタール11条)
作業備品、作業用品代等
- [0257] 作業備品、作業用品代等は、賃金には該当しない。(昭和27年5月10日基収2162号)
労働者持ちの器具の損料
- [0258] 労働者持ちの器具の損料(借り賃)として支給されるものは、賃金に該当しない。(昭和55年12月10日基発683号)
実費弁償的なもの
- [0259] 通常実費弁償としてとらえられている旅費等は、原則として、賃金ではない。(コンメンタール11条)
- [0260] 私有自動車を社用に提供する者に対し、社用に用いた走行距離に応じて支給されるガソリン代は、実費弁償であり、賃金ではない。(昭和28年2月10日基収6212号、昭和63年3月14日基発150号)
休業手当
- [0261] 法26条に規定する休業手当は、賃金に該当する。(昭和63年3月14日基発150号)
休業補償
- [0262] 法76条に規定する休業補償は、法定額を超える部分も含めて、賃金には該当しない。(昭和25年12月27日基収3432号)
ストック・オプション
- [0263] ストック・オプション制度では、権利付与を受けた労働者が権利行使を行うか否か、また、権利行使するとした場合において、その時期や株式売却時期をいつにするかを労働者が決定するものとしていることから、この制度から得られる利益は、それが発生する時期及び額ともに労働者の判断に委ねられているため、労働の対償ではなく、法11条の賃金には当たらない。(平成9年6月1日基発412号)
解雇予告手当
- [0264] 解雇予告手当は、賃金に該当しない。(昭和23年8月18日基収2520号)
平均賃金の定義
平均賃金とは
- [0265] 平均賃金とは、①解雇予告手当、②休業手当、③年次有給休暇の賃金、④災害補償、⑤減給の制裁の制限額を算定するときのそれぞれの尺度として使われる、労働者の1日当たりの生活賃金をいう。(コンメンタール12条)
原則的な算定式
- [0266] 平均賃金とは、これを算定すべき事由の発生した日以前3箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数(総暦日数)で除した金額をいう。(法12条1項)
- [0267] 1日当たりの平均賃金における端数処理は、「銭未満」切捨てとなる。(昭和22年11月5日基発232号)
出来高払制等の最低保障
- [0268] 賃金が、日給、時給、又は出来高払制等の労働者については、平均賃金の算定において、賃金の総額をその期間中に労働した日数で除した金額の「100分の60」を下回ってはならない。(法12条1項ただし書)
- [0269] 賃金の一部が、月、週その他一定の期間によって定められた場合においては、その部分の総額をその期間の総日数で除した金額と法12条1項ただし書ア.の金額の合算額を下回ってはならない。(法12条1項ただし書)
算定事由発生日
- [0270] 算定すべき事由と算定事由発生日は次の通りである。
算定事由 | 算定事由発生日 |
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解雇予告手当 (昭和39年6月12日36基収2316号) | 労働者に解雇の通告をした日 |
休業手当 (コンメンタール12条) | 休業日(休業が2日以上の期間にわたる場合は、その最初の日) |
年次有給休暇中の賃金 (コンメンタール12条) | 年次有給休暇を与えた日(年次有給休暇が2日以上の期間にわたるときは、その最初の日) |
災害補償 (則48条、昭和25年10月19日基収2908号) | 死傷の原因たる事故発生日又は診断によって疾病の発生が確定した日 |
減給の制裁の制限額 (昭和30年7月19日基収5875号) | 減給の制裁の意思表示が相手方に到達した日 |
賃金締切日がある場合
- [0271] 平均賃金の算定期間は、賃金締切日がある場合には、算定事由発生日の「直前の賃金締切日」以前3か月間となる。(法12条2項)
賃金締切日当日が算定事由発生日である場合
- [0272] 「賃金締切日」に算定事由が発生した場合においても、なお直前の締切日からさかのぼって3か月の期間を平均賃金の計算の基礎とする。(昭和24年7月13日基収2044号)
賃金ごとに賃金締切日が異なる場合
- [0273] 賃金ごとに「賃金締切日が異なる」場合には、それぞれの賃金ごとの賃金締切日を用いて平均賃金を算定する。(昭和26年12月27日基収5926号)
平均賃金の算定基礎から控除される期間及び賃金
- [0274] 平均賃金の算定の基礎となる3箇月間に次の期間がある場合には、その日数及びその期間中の賃金は、平均賃金の算定基礎から控除される(分母、分子それぞれから控除する)。(法12条3項)
平均賃金の算定基礎から控除される期間及びその賃金 |
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使用者の責めに帰すべき事由による休業が一部休業の場合
- [0275] 使用者の責めに帰すべき事由による休業が、一部休業であった場合、その日の労働に対して支払われた賃金が平均賃金の100分の60を超えると否とにかかわらず、一部休業があった場合はその日を休業日とみなし、その日及びその日の賃金の「全額」を控除する。(昭和25年8月28日基収2397号)
通勤定期乗車券
- [0276] 通勤手当や定期乗車券は、平均賃金の算定において賃金総額から控除されない(6か月定期券であっても賃金の前払として平均賃金算定の基礎に加える)。(昭和33年2月13日基発90号)
平均賃金の算定基礎となる賃金に含めないもの
- [0277] 賃金総額には、次のものは、算入しない(分子から控除する)。(法12条4項)
平均の算定基礎となる賃金総額に算入しない賃金 |
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平均賃金の特例
雇入れ3箇月を満たない者
- [0278] 雇入れ3箇月を満たない者についての平均賃金は、「雇入れ後」の期間とその期間中の賃金の総額により平均賃金を算定する。(法12条6項)
- [0279] 雇入後3箇月に満たない者について平均賃金を算定する場合であっても、賃金締切日があるときは、直前の「賃金締切日」から起算して平均賃金の基礎とする。(昭和23年4月22日基収1065号)
日日雇入れられる者
- [0280] 日日雇入れられる者についての平均賃金は、その従事する事業又は職業について、厚生労働大臣の定める金額を平均賃金とする。(法12条7項)
原則的な方法で算定し得ない場合①(試みの使用期間中の平均賃金)
- [0281] 原則的な方法(法12条1項から6項)によって算定し得ない場合の平均賃金は、厚生労働大臣が定める。(法12条8項)
- [0282] 試みの使用期間中に平均賃金を算定すべき事由が発生した場合には、その期間中の日数及びその期間中の賃金は、平均賃金の算定期間及び賃金の総額にそれぞれに算入させる。(則3条)
原則的な方法で算定し得ない場合②(組合専従中の平均賃金)
- [0283] 平均賃金の算定期間の「全部」が組合専従のための休業期間であるときにおける平均賃金の算定は、都道府県労働局長の定めるところによる。すなわち、組合専従のため休業した最初の日をもって平均賃金の算定事由発生日とみなし、平均賃金は算定される。(昭和24年8月19日基収1351号)