労働基準法の全論点集(6)

 

労働契約(3)

労働契約の終了

解雇予告

解雇予告及び解雇予告手当

  • [0194] 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少なくとも30日前にその予告をしなければならない。30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金解雇予告手当)を支払わなければならない。(法20条1項)

労働者からの任意退職

  • [0195] 法20条解雇予告の規定は「使用者側からの」解雇を制限するものであって、労働者側よりする」退職については就業規則その他に別段の定めのない場合には民法の原則(=当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する)による。(民法627条1項、昭和23年3月31日基発513号)

解雇予告期間の計算

  • [0196] 解雇予告期間の計算については、解雇予告がなされた日」は算入されず、その翌日より計算され、期間の末日の終了をもって期間の満了となるので、予告の日と解雇の効力発生の日との間に中30日間の期間を置く必要がある
  • [0197] 30日間は「労働日」でなく暦日」で計算されるので、その間に休日又は休業日があっても延長されない。したがって、5月31日の終了をもって解雇の効力を発生させるためには、遅くとも5月1日には解雇の予告をしなければならない(9月30日の場合は、8月31日には解雇の予告をしなければならない)。(コンメンタール20条)

解雇予告手当を支払ったことによる解雇予告期間の短縮

  • [0198] 予告の日数は、1日について平均賃金を支払った場合においては、その日数を短縮することができる。(法20条2項)

解雇予告期間中の雇用契約の締結

  • [0199] 解雇の予告を受けた労働者解雇予告期間中に他の使用者と雇用契約を結ぶことはできる(ただし、自ら契約を解除した場合を除き、予告期間満了までは従来の使用者のもとで勤務する義務はあ)。(昭和33年2月13日基発90号)

再就職の斡旋を行った場合

  • [0200] 解雇に当たって使用者が就職を斡旋した場合であっても、労働者が任意退職をしたと認められない限り、解雇予告等の手続きを行わなければならない。(昭和23年5月14日基発769号)

年少者を解雇する場合

  • [0201] 年少者である労働者を解雇する場合であっても、解雇事由が解雇予告除外認定事由でなければ、使用者は解雇予告を行うか又は解雇予告手当を支払う必要があるが、その際、親権者又は後見人の承諾は不要である。(法20条)

解雇予告の取消し

  • [0202] 使用者が行った解雇の予告の意思表示は、一般的には取り消すことができないが、労働者が具体的事情の下に自由な判断によって同意を与えた場合には、取り消すことができる。(昭和33年2月13日基発90号)
  • [0203] 使用者が行った解雇予告の意思表示の取消しに対して「労働者が同意しない」場合には、予告期間の満了によって労働契約は終了し、当該労働契約の終了は任意退職ではなく使用者による解雇となる。(昭和33年2月13日基発90号)

解雇予告期間が到来した後に解雇する場合

  • [0204] 30日前に予告はしたが、その期限到来後、解雇期日を延期することを本人に伝達しそのまま使用した場合には、通常同一条件にてさらに労働契約がなされたものとみなされるため、改めて解雇予告等の手続を経なければならない。(昭和24年6月18日基発1926号)

解雇予告期間中に解雇制限事由に該当した場合

  • [0205] 解雇予告期間中に解雇制限事由が発生した場合には、予告期間が満了しても解雇することはできない。しかし、その休業期間が長期にわたるようなものでない限り、解雇予告の効力が停止したにすぎないので、前の解雇予告自体は無効となるわけではなく、解雇制限期間経過とともに解雇の効力が発生する。(昭和26年6月25日基収2609号)

解雇予告と休業手当の支給

  • [0206] 解雇予告と同時に休業を命じ、解雇予告期間中は平均賃金の60%の休業手当しか支払わなかった場合でも、30日前に予告がなされている限り、その労働契約は予告期間の満了によって終了する。(昭和24年12月27日基収1224号)

解雇予告手当の支払

  • [0207] 即時解雇の場合における解雇予告手当は、解雇の申渡しと同時に支払うべきものである。(昭和23年3月17日基発464号)

解雇予告手当の時効

  • [0208] 解雇予告手当は、解雇の意思表示に際して支払わなければ解雇の効力を生じないものと解されるから、一般には解雇予告手当については時効の問題は生じない。(昭和27年5月17日基収1906号)

最低年齢違反の労働者の解雇

  • [0209] 最低年齢違反の無効な労働契約のもとに就労していた児童を解雇する場合についても、解雇予告の規定は適用され、かつ予告による違法状態の継続を認めない建前から、予告手当を支払い即時解雇しなければならない。(昭和23年10月18日基収3102号)

解雇予告も予告手当の支払もない解雇の場合

  • [0210] 解雇予告期間を設けず解雇予告手当の支払もしないで労働者に解雇の通告をした場合は、使用者が即時解雇を固執する趣旨でない限り、①通知後法定の最短期間である30日の期間を経過するとき、又は、②通知後解雇予告手当の支払をしたとき、のいずれか早いときから解雇の効力が生じる解雇相対的無効説)とするのが最高裁判所の判例である。(昭和35年3月11日最高裁判所第二小法廷細谷服装事件、昭和24年5月13日基収1483号)

手当の供託

  • [0211] 解雇の申渡しをなすと同時に解雇予告手当を提供し当該労働者が解雇予告手当の受領を拒んだ場合には、これを法務局に供託することができる。(昭和63年3月14日基発150号)

解雇予告手当と他の債務との相殺

  • [0212] 解雇予告手当と他の債務を相殺することはできない。借金とは別個に予告手当の問題を取り扱うべきである。(昭和24年1月8日基収54号)

解雇予告手当の支払方法

  • [0213] 解雇予告手当は、必ずしも通貨払直接払の要件を具備しなくても差し支えないが、法24条に準じて通貨で直接支払うよう取り計らう旨の指導が行われる。(昭和23年8月18日基収2520号)

解雇予告の方法

  • [0214] 解雇予告は、直接個人に対して解雇の意思表示が明確に伝わる方法でなされるべきであり、文書で行うのが確実な方法であるが、口頭で行っても有効である。(コンメンタール20条)

組合専従者に対する解雇予告等

  • [0215] 労働者が労働組合の専従者であって、会社に在籍はしているが専従期間中は会社から賃金の支払を受けていない場合であっても、使用者は当該労働者を解雇するに当たって解雇の予告又は解雇予告手当の支払を行わなければならない。(昭和24年8月19日基収1351号)

解雇予告の例外(即時解雇が可能な場合)

天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合

  • [0216] 天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合には、原則として、解雇予告又は解雇予告手当の支払いを要しない。(法20条1項ただし書)
  • [0217] この場合、その事由について、所轄労働基準監督署長の認定を受けなければならない。(法20条3項、則7条)

労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合

  • [0218] 労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合には、原則として、解雇予告又は解雇予告手当の支払いを要しない。(法20条1項ただし書)
  • [0219] この場合には、その事由について、所轄労働基準監督署長の認定を受けなければならない。(法20条3項、則7条)
  • [0220] 労働者の責に帰すべき事由には次のようなものがある。(昭和23年11月11日基発1637号、昭和31年3月1日基発111号)
労働者の責に帰すべき事由に該当するもの
  1.  極めて軽微なものを除き、事業場内における盗取横領傷害等刑法犯に該当する行為のあった場合
  2.  賭博、風紀紊乱等により職場規律を乱し他の労働者に悪影響を及ぼす場合
  3.  雇入れの際の採用条件の要素となるような経歴を詐称した場合
  4.  出勤不良又は出欠常ならず、数回にわたって注意をうけても改めない場合 

解雇予告除外認定の性格

  • [0221] 解雇予告除外認定は、原則として解雇の意思表示をなす前に受けるべきものではあるが、それは、認定事由に該当する事実があるか否かを確認する処分であって、認定されるべき事実がある場合には使用者は有効に即時解雇をなし得るものと解されるので、そのような事実がある場合には、即時解雇の意思表示をした後解雇予告除外認定を得たときは、その解雇の効力は使用者が即時解雇の「意思表示をした日」に発生すると解されている。(昭和63年3月14日基発150号)

解雇予告の適用除外

日日雇い入れられる者

  • [0222] 日日雇い入れられる者には解雇予告の規定は適用されないが、1箇月を超えて引き続き使用されるに至った場合には、解雇予告が必要となる。(法21条1号)

2箇月以内の期間を定めて使用される者

  • [0223] 2箇月以内の期間を定めて使用される者には解雇予告の規定は適用されないが、所定の期間を超えて引き続き使用されるに至った場合には、解雇予告が必要となる。(法21条2号)

季節的業務に4箇月以内の期間を定めて使用される者

  • [0224] 季節的業務4箇月以内の期間を定めて使用される者には解雇予告の規定は適用されないが、所定の期間を超えて引き続き使用されるに至った場合には、解雇予告が必要となる。(法21条3号)

試の使用期間中の者

  • [0225] 試の使用期間中の者には解雇予告の規定は適用されないが、14日を超えて引き続き使用されるに至った場合には、解雇予告が必要となる。(法21条4号)

14日を超える試用期間

  • [0226] 試用期間は、就業規則等でこれを自由に例えば3か月あるいは6か月定めることができるが、そのような長期の試の使用期間の定めがあっても、14日を超えて引き続き使用されるに至った場合は解雇予告制度が適用される。(昭和24年5月14日基収1498号)

日日雇入れられる者を2箇月の有期雇用者とし、期間満了前に解雇する場合

  • [0227] 日日雇い入れられる者として雇い入れた労働者を、幾日か経過した後に2箇月の期間を定めた労働者として雇用し、その2か月の期間が満了前に解雇する場合には、当該2か月の契約が反復継続して行われたものでなければ、解雇の予告又は解雇予告手当の支払を行う必要はない。(昭和27年4月22日基収1239号)

日日雇入れられる者を一般労働者として雇用し、2週間の試用期間内に解雇する場合

  • [0228] 日日雇い入れられる者期限付もしくは無期限の一般労働者として雇用した場合、その後2週間の試用期間内に解雇しようとする場合は、契約更新に伴い、明らかに作業内容が切り替えられる等客観的に試の使用期間と認められる場合のほか解雇予告を必要とする。(昭和27年4月22日基収1239号)

退職時の証明

退職時証明書

  • [0229] 労働者が、退職の場合において、証明書を請求したときは、使用者は、遅滞なく、「退職時証明書」を交付しなければならない。(法22条1項)
  • [0230] 退職時の証明書における「退職の場合」とは、労働者の自己退職の場合に限らず、使用者より解雇された場合や契約期間の満了により自動的に契約が終了する場合も含まれ、退職原因のいかんを問わず、使用者には証明書の交付義務がある。(コンメンタール22条)

退職時証明書の法定記載事項

  • [0231] 退職時証明書の法定記載事項は、次の事項であって、これらの事項については、労働者から請求がある場合「必ず記入」しなければならない。(法22条1項)
退職時証明書の法定記載事項
  1.  使用期間
  2.  業務の種類
  3.  その事業における地位
  4.  賃金
  5.  退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあっては、その理由を含む)
  • [0232] 退職時証明書には、「労働者の請求しない事項」を記入してはならない。(法22条3項)

労働者と使用者との間で見解の相違がある場合

  • [0233] 労働者と使用者との間で退職の事由について「見解の相違」がある場合使用者が自らの見解を証明書に記載し労働者の請求に対し遅滞なく交付すれば、基本的には法22条1項違反とはならないが、それが虚偽であった場合(使用者がいったん労働者に示した事由と異なる場合等)には、法22条1項の義務を果たしたことにはならない。(平成11年3月31日基発169号)

解雇理由証明書

  • [0234] 使用者は、労働者が、解雇予告がされた日から退職の日までの間において、「解雇理由証明書」を請求した場合においては、遅滞なくこれを交付しなければならない。なお、この証明書は、解雇予告の義務がない即時解雇の場合には適用されない。(法22条2項、平成15年10月22日基発1022001号)
  • [0235] 解雇理由証明書には、「労働者の請求しない事項」を記入してはならない。(法22条3項)

ブラックリストの禁止

  • [0236] 使用者は、あらかじめ第三者と謀り労働者就業を妨げることを目的として労働者国籍信条社会的身分若しくは労働組合運動に関する通信」をし、又は退職時証明書及び解雇理由証明書秘密の記号」記入してはならない。(法22条4項)
  • [0237] 「あらかじめ第三者と謀り」とは、事前に第三者と申し合わせてという意味であって、事前の申し合わせに基づかない具体的照会に対して回答することは、法22条4項に違反しない。(コンメンタール22条)

禁止事項

  • [0238] 「労働者の国籍信条社会的身分若しくは労働組合運動」は制限列挙事項であって、例示ではない。(平成15年12月26日基発1226002号)

秘密の記号

  • [0239] 秘密の記号の記入は、「すべての事項」について禁止されており、あらかじめ第三者と謀り、かつ労働者の就業を妨げることを目的とする場合は、いかなる事項について記入しても法22条4項に違反する。(コンメンタール22条)

金品の返還

金品の返還

  • [0240] 使用者は、労働者の死亡又は退職の場合において、権利者の請求があったときは、争いがある部分を除き、7日以内賃金を支払い積立金保証金貯蓄金その他名称のいかんを問わず労働者権利に属する金品を返還しなければならない。(法23条1項)
  • [0241] 賃金又は金品に関して「争いがある」場合においては、使用者は、異議のない部分を、7日以内に支払い又は返還しなければならない。(法23条2項)

7日を経過する前に賃金支払日が到来する場合

  • [0242] 労働者死亡又は退職の場合において、権利者から請求があった場合においては、請求の日から7日以内に賃金を支払わなければならない、請求の日から「7日を経過する前に賃金支払日が到来する」ときは、賃金は、所定の賃金支払日」に支払わなければならない。(コンメンタール23条)

退職手当

  • [0243] 労働者死亡又は退職の場合において、権利者から請求があったときであっても、退職手当は、通常の賃金の場合と異なりあらかじめ就業規則等で定められた支払時期に支払えば足りる。(昭和63年3月14日基発150号)

退職手当の支払

  • [0244] 労働者が死亡したときの退職金の支について別段の定めがない場合には民法の一般原則による遺産相続人に支払うこととなるが、労働協約就業規則等において民法の遺産相続の順位によらず、労働基準則42条43条の順による旨を定めた場合に、その定めた順位によって支払ったときはその支払は有効である。(昭和25年7月7日基収1786号)

解雇予告手当

  • [0245] 解雇予告手当は、法23条に定める労働者の退職の際その請求に応じて7日以内に支払うべき労働者の権利に属する金品には含まれない。(昭和23年3月17日基発464号)
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