労働基準法の全論点集(5)

 

労働契約(2)

労働契約の終了

労働契約の終了                       

労働契約の終了の態様

  • [0171] 「解雇」とは、労働契約を将来に向かって解約する使用者側の一方的意思表示である。(コンメンタール19条)
  • [0172] 労働関係の終了事由のうちでも、労使間の合意による解約、労働契約に期間の定めがある場合の期間満了、労働者側からするいわゆる任意退職(民法上は解約)等は、解雇」ではない。(コンメンタール19条)
  • [0173] 労働契約の終了の態様には、次のものがある。(コンメンタール19条)
労働契約の終了の態様
  1.  契約期間満了
  2.  定年年齢への到達
  3.  労働者の死亡
  4.  労働者の申出による退職
  5.  解雇

相続、合併等の場合

  • [0174] 企業経営者が個人の場合において発生する「相続」、会社の場合における「合併等」の場合においては、相続人又は新会社に一切の権利義務が包括的に継承されるため、企業経営主体が交替しても労働契約関係は継続しているものと解され、従前の企業経営主体との労働契約関係は終了しない。(コンメンタール19条)

解雇権濫用法理

  • [0175] 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効になる。(労働契約法16条、旧労働基準法18条の2)

定年解雇制

  • [0176] 定年に達したことを理由として解雇するいわゆる「定年解雇制」を定めた場合の定年に達したことを理由とする解雇は、法20条の解雇予告の規制を受ける。(昭和43年12月25日最高裁判所大法廷秋北バス事件)

定年退職制

  • [0177] 就業規則に定める定年制が労働者の定年に達した翌日をもってその雇用契約は「自動的に」終了する旨を定めたことが明らかであり、かつ従来この規定に基づいて定年に達した場合に当然雇用関係が消滅する慣行となっていて、それを従業員に徹底させる措置をとっている場合(定年退職制)は、解雇の問題を生ぜず、したがってまた法19条の問題も生じない。(昭和26年8月9日基収3388号)

解雇制限             

業務上の傷病による解雇制限

  • [0178] 使用者は、原則として、労働者業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間は、労働者を解雇してはならない。(法19条1項)

完治していないが、休業せず出勤している場合

  • [0179] 業務上負傷した労働者が、完治してはいないが休業しないで「復職」した場合は、復職後30日を経過後は雇制限を受けない。(昭和24年4月12日基収1134号)

産前産後の女性に対する解雇制限

  • [0180] 使用者は、原則として、産前産後の女性が法65条(産前産後休業)の規定によって休業する期間及びその後30日間は、労働者を解雇してはならない。(法19条1項)

分娩が出産予定日より遅れたため延長して休業している場合

  • [0181] 出産予定日前6週間の休業を与えられた後において、実際の分娩が出産予定日より遅れたため延長して休業している期間は、法65条の「産前休業期間とみなされるので、この期間も解雇が制限される。(コンメンタール19条)

女性労働者が休業を請求せずに就業している場合

  • [0182] 6週間以内に出産する予定の女性労働者が休業を請求せず引き続き「就業」している場合は、法19条の解雇制限期間にはならない。(昭和25年6月16日基収1526号)

産後8週間を超えて休業している場合

  • [0183] 産後の休業は出産当日の翌日から8週間が法定の休業期間であるから、これを超えて休業している期間は、たとえ出産に起因する休業であっても法19条にいう「休業する期間には該当しない。(コンメンタール19条)

労働契約期間の満了と解雇制限の関係

  • [0184] 一定の期間又は一定の事業の完了に必要な期間までを契約期間とする労働契約を締結していた労働者の労働契約は、他に契約期間満了後引続き雇用関係が更新されたと認められる事実がない限りその期間満了とともに終了する。したがって、業務上負傷し又は疾病にかかり療養のため休業する期間中の者の労働契約もその「期間満了とともに」労働契約は終了するものであって、法19条1項の解雇制限の規定の適用はない。(昭和63年3月14日基発150号)

解雇制限の解除        

打切補償を支払う場合

  • [0185] 使用者法81条の規定による打切補償(=平均賃金の1,200日分)を支払った場合には、解雇制限は解除される。(法19条1項ただし書)

打切補償を支払ったものとみなされる場合

  • [0186] 業務上の傷病により療養開始後「3年を経過した日」において、労災保険法の規定による傷病補償年金を受けている場合には、打切補償を支払ったものとみなされ、解雇制限は解除される。(昭和52年3月30日基発192号)

打切補償を支払ったとは認められない場合

  • [0187] 打切補償の支払を約しただけの場合又はその一部の支払をしただけの場合は、打切補償を支払ったことにならないので、解雇することはできない。(コンメンタール19条)

労働者の責に帰すべき事由が判明した場合

  • [0188] 解雇制限を受ける労働者について、たとえ労働者の責に帰すべき事由が判明しても、その者を解雇制限期間中には解雇してはならない。(昭和24年11月11日基収3806号)

天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合

  • [0189] 天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合には、解雇制限は解除される。(法19条1項ただし書)
  • [0190] ただし、その事由について所轄労働基準監督署長の認定を受けなければならない。(法19条2項、則7条)

やむを得ない事由

  • [0191] 「やむを得ない事由」とは、天災事変に準ずる程度に不可抗力に基づきかつ突発的な事由の意であり、事業の経営者として、社会通念上採るべき必要な措置をもってしても通常如何ともなし難いような状況にある場合をいう。(昭和63年3月14日基発150号)
  • [0192] 「やむを得ない事由」とは、具体的には次のような事由をいう。(コンメンタール19条)
やむを得ない事由やむを得ない事由に該当しないもの
  1.  事業場が火災により焼失した場合(事業主の故意又は重大な過失に基づく場合を除く)
  2.  震災に伴う工場等の倒壊類焼等により事業の継続が不可能となった場合
  1.  税金の滞納処分を受け事業廃止に至った場合
  2.  従来の取引事業場が休業状態となり、発注品なく事業が金融難に陥った場合
  3.  単なる事業の廃止

労災保険の保険給付と打切補償

  • [0193] 労災保険法の療養補償給付を受ける労働者が、療養開始後3年を経過しても疾病等が治らない場合には、労働基準法75条による療養補償を受ける労働者が上記の状況にある場合と同様に、使用者は、当該労働者につき、打切補償の支払をすることにより、解雇制限の除外事由を定める労働基準法第19条第1項ただし書の適用を受けることができる。(平成27年6月9日基発0609第4号)
トップへ戻る