三菱重工業長崎造船所事件①

三菱重工業長崎造船所事件①

昭和56年9月18日最高裁判所第二小法廷
ストーリー
 Y社造船所の従業員、労働者Xらは、A労働組合の組合員であった。
 A労働組合は、昭和47年の7⽉と8⽉にストライキを断行し、これに対しY社は、それぞれのストライキ期間における家族⼿当を削減した。
 Y社造船所では、昭和23年頃から賃⾦規則において、「ストライキ期間に応じて家族⼿当をも削減する」旨の規定を設け、これを実⾏していた。その後、昭和44年11月に賃金規定から当該規則を削除し、新しく賃金規則細部取扱において、同様の規定を設けている(当時の過半数労働組合の了承は受けていたが、届出や周知手続きは行われていない)。
 Y社は、その後もストライキ中の家族手当の削減を実施したが、労働者Xらは、この取り扱いを不服とし、訴えを提起した。

 ストライキ中の家族手当の削減は、ずいぶん前から実施されています。労働慣行としてすでに成立している以上、削減は今後も実施していきます。

 一方的に家族手当の削減を継続してきた事実があったからといって、労働慣行として成立しているわけではありません。削減分の家族手当の返還を要求します。

 結 論  労働者Xら敗訴
 ストライキ期間中の賃⾦削減の対象となる部分の存否及びその部分と賃⾦削減の対象とならない部分の区別は、当該労働協約等の定め⼜は労働慣⾏の趣旨に照らし個別的に判断するのを相当とし、本件においては、Y社と労働者Xらの所属するA労働組合との間には労働慣⾏が存在したものと推認することができる(ストライキ中の賃金削減は、いわゆる抽象的一般的賃金二分論を前提とすべきではない)。
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ストライキ期間中の賃金削減

 Y社のD造船所においては、ストライキの場合における家族⼿当の削減が昭和23年頃から昭和44年10⽉までは就業規則(賃⾦規則)の規定に基づいて実施されており、その取扱いは、同年11⽉賃⾦規則から右規定が削除されてからも、細部取扱のうちに定められ、Y社従業員の過半数で組織されたB労働組合の意⾒を徴しており、その後も同様の取扱いが引続き異議なく⾏われてきたというのであるから、ストライキの場合における家族⼿当の削減は、Y社とXらの所属するA労組との間の労働慣⾏となっていたものと推認することができるというべきである。また、右労働慣⾏は、家族⼿当を割増賃⾦の基礎となる賃⾦に算⼊しないと定めた労働基準法37条5項及び本件賃⾦規則25条の趣旨に照らして著しく不合理であると認めることもできない。これと異なる⾒解に⽴って本件家族⼿当の削減を違法とした原判決は、法令の解釈適⽤を誤ったものというべきであって、右違法は判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由があり、原判決は、その余の点につき判断するまでもなく破棄を免れず、更にこれと同旨の第⼀審判決は取消を免れない。
 
 Xらは、本件家族⼿当は賃⾦中⽣活保障的部分に該当し、労働の対価としての交換的部分には該当しないのでストライキ期間中といえども賃⾦削減の対象とすることができない部分である、と主張する。しかし、ストライキ期間中の賃⾦削減の対象となる部分の存否及びその部分と賃⾦削減の対象とならない部分の区別は、当該労働協約等の定め⼜は労働慣⾏の趣旨に照らし個別的に判断するのを相当とし、Y社の造船所においては、昭和44年11⽉以降も本件家族⼿当の削減が労働慣⾏として成⽴していると判断できることは前述したとおりであるから、いわゆる抽象的⼀般的賃⾦⼆分論を前提とするXらの主張は、その前提を⽋き、失当である。所論引用の判例(明治生命保険事件)は事案を異にし、本件に適切でない。

 賃金を労働の対価部分(基本給)と生活保障部分(家族手当、住宅手当など)とに二分する「賃金二分論」という考えがあります。「明治生命事件(昭和40年2⽉5⽇最⾼裁判所第⼆⼩法廷)」において、労働の対価として支給されるものでない生活補償費の性質を有する給与(生活保障部分)は当然には削減しうるものではないとする判決が下っています。

 しかし、家族手当を20年間カットしていたことを、最高裁は「労働慣行が成立している」と認め、本件においてはその削減を認めました。

 次にXらは、本件家族⼿当の削減は、(1) 労働基準法37条5項が割増賃⾦算定の基礎に家族⼿当を算⼊しないとする法意並びに、(2) 同法24条の規定にも違反する、と主張する。しかし、同法37条5項が家族⼿当を割増賃⾦算定の基礎から除外すべきものと定めたのは、家族⼿当が労働者の個⼈的事情に基づいて⽀給される性格の賃⾦であって、これを割増賃⾦の基礎となる賃⾦に算⼊させることを原則とすることがかえって不適切な結果を⽣ずるおそれのあることを配慮したものであり、労働との直接の結びつきが薄いからといって、その故にストライキの場合における家族⼿当の削減を直ちに違法とする趣旨までを含むものではなく、また、同法24条所定の賃⾦全額払の原則は、ストライキに伴う賃⾦削減の当否の判断とは何ら関係がないから、Xらの右主張も採⽤できない。
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通達上での取り扱い

(昭和24年8月18日基発898号)
(問)
 労働協約又は就業規則に争議を行った期間についても家族手当を支給する旨の取極め又は規定のない限り、争議期間中の家族手当は支給条件の如何にかかわらず支給する必要はないものと考えられるが如何。
(答)
 一般の賃金と同じく家族手当についても、その支給条件の如何にかかわらず争議行為の結果契約の本旨に従った労働の提供のなかった限度において支払わなくても法第24条の違反とはならない
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過去問

rkh3006Dストライキの場合における家族手当の削減が就業規則(賃金規則)や社員賃金規則細部取扱の規定に定められ異議なく行われてきている場合に、「ストライキ期間中の賃金削減の対象となる部分の存否及びその部分と賃金削減の対象とならない部分の区別は、当該労働協約等の定め又は労働慣行の趣旨に照らし個別的に判断するのを相当」とし、家族手当の削減が労働慣行として成立していると判断できる以上、当該家族手当の削減は違法ではないとするのが、最高裁判所の判例である。
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