朝日火災海上保険(高田)事件

朝日火災海上保険(高田)事件

平成8年3月26日最高裁判所第三小法廷
ストーリー
 労働者Xは、A社鉄道保険部に雇用されていたが、鉄道保険部の業務がY社に引き継がれたのに伴い、Y会社の労働者となった。
 A社からY社に移った労働者の労働条件は、A社出身の労働者の労働条件をY社の労働者の基準まで引き上げることによって順次統一されていった。しかし、定年年齢の統一については、A社出身が満63歳とされていたのに対し、Y社の定年は満55歳のままであった。
 その後Y社は、赤字を計上したことを契機(大蔵省に退職金倒産に至るとの指摘を受ける)に、労働組合と労働協約を締結し、A社出身者の定年を満57歳とした。
 労働者Xは、労働協約上非組合員とされていたが、この労働協約及び就業規則変更の拘束力が及ぶものとして取扱われた。このため、この時点で満53歳であった労働者Xは、定年が満63歳から満57歳に引き下げられ、また、退職金は、満57歳の定年時に支給され、それ以降は支給されなくなることとなった。このため、労働者Xは変更前の退職金の支払いと労働契約上の地位の確認を求めて訴えを提起した。

 

定年年齢を引き下げます。このことについては、

労働組合と労働協約を締結しています。

 

非組合員である私がどうして労働協約の

不利益変更に従わなければならないの。

 

 結 論  労働者X勝訴
 労働組合法第17 条に定める労働協約の一般的拘束力を理由として、未組織労働者の労働条件を従来よりも不利益に変更することは、当該労働協約を未組織労働者に適用することが著しく不合理であると認められる特段の事情がある場合には許されない。

労働協約の一般的拘束力は、どんな場合であっても、及ぶことになるのか。

 労働協約には、労働組合法17条により、一の工場事業場の4分の3以上の数の労働者が一の労働協約の適用を受けるに至ったときは、当該工場事業場に使用されている他の同種労働者に対しても右労働協約の規範的効力が及ぶ旨の一般的拘束力が認められている。ところで、同条の適用に当たっては、右労働協約上の基準が一部の点において未組織の同種労働者の労働条件よりも不利益とみられる場合であっても、そのことだけで右の不利益部分についてはその効力を未組織の同種労働者に対して及ぼし得ないものと解するのは相当でない。けだし、同条は、その文言上、同条に基づき労働協約の規範的効力が同種労働者にも及ぶ範囲について何らの限定もしていない上、労働協約の締結に当たっては、その時々の社会的経済的条件を考慮して、総合的に労働条件を定めていくのが通常であるから、その一部をとらえて有利、不利をいうことは適当でないからである。また、右規定の趣旨は、主として一の事業場の4分の3以上の同種労働者に適用される労働協約上の労働条件によって当該事業場の労働条件を統一し、労働組合の団結権の維持強化と当該事業場における公正妥当な労働条件の実現を図ることにあると解されるから、その趣旨からしても、未組織の同種労働者の労働条件が一部有利なものであることの故に、労働協約の規範的効力がこれに及ばないとするのは相当でない。
 しかしながら他面、未組織労働者は、労働組合の意思決定に関与する立場になく、また逆に、労働組合は、未組織労働者の労働条件を改善し、その他の利益を擁護するために活動する立場にないことからすると、労働協約によって特定の未組織労働者にもたらされる不利益の程度・内容、労働協約が締結されるに至った経緯、当該労働者が労働組合の組合員資格を認められているかどうか等に照らし、当該労働協約を特定の未組織労働者に適用することが著しく不合理であると認められる特段の事情があるときは、労働協約の規範的効力を当該労働者に及ぼすことはできないと解するのが相当である。 ……以上のことからすると、本件労働協約が締結されるに至った前記の経緯を考慮しても、右のような立場にあるXの退職金の額を前記金額を下回る額にまで減額するという不利益をXに甘受させることは、著しく不合理であって、その限りにおいて、本件労働協約の効力はXに及ぶものではないと解するのが相当である。
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 労働協約には、労働組合法17条により、一の工場事業場の4分の3以上の数の労働者が一の労働協約の適用を受けるに至ったときは、当該工場事業場に使用されている他の同種労働者に対しても右労働協約の規範的効力が及ぶ旨の一般的拘束力が認められている。ところで、同条の適用に当たっては、右労働協約上の基準が一部の点において未組織の同種労働者の労働条件よりも不利益とみられる場合であっても、そのことだけで右の不利益部分についてはその効力を未組織の同種労働者に対して及ぼし得ないものと解するのは相当でない。けだし、同条は、その文言上、同条に基づき労働協約の規範的効力が同種労働者にも及ぶ範囲について何らの限定もしていない上、労働協約の締結に当たっては、その時々の社会的経済的条件を考慮して、総合的に労働条件を定めていくのが通常であるから、その一部をとらえて有利、不利をいうことは適当でないからである。また、右規定の趣旨は、主として一の事業場の4分の3以上の同種労働者に適用される労働協約上の労働条件によって当該事業場の労働条件を統一し、労働組合の団結権の維持強化と当該事業場における公正妥当な労働条件の実現を図ることにあると解されるから、その趣旨からしても、未組織の同種労働者の労働条件が一部有利なものであることの故に、労働協約の規範的効力がこれに及ばないとするのは相当でない。
 しかしながら他面、未組織労働者は、労働組合の意思決定に関与する立場になく、また逆に、労働組合は、未組織労働者の労働条件を改善し、その他の利益を擁護するために活動する立場にないことからすると、労働協約によって特定の未組織労働者にもたらされる不利益の程度・内容、労働協約が締結されるに至った経緯、当該労働者が労働組合の組合員資格を認められているかどうか等に照らし、当該労働協約を特定の未組織労働者に適用することが著しく不合理であると認められる特段の事情があるときは、労働協約の規範的効力を当該労働者に及ぼすことはできないと解するのが相当である。 ……以上のことからすると、本件労働協約が締結されるに至った前記の経緯を考慮しても、右のような立場にあるXの退職金の額を前記金額を下回る額にまで減額するという不利益をXに甘受させることは、著しく不合理であって、その限りにおいて、本件労働協約の効力はXに及ぶものではないと解するのが相当である。

 

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