広島中央労基署長事件

広島中央労基署長事件

平成24年2月24日最高裁判所第二小法廷
ストーリー
 労災保険に特別加入していたA社の事業主Xが、工事予定現場の下見から帰社する途中で事故死した。
 事故当時、A社の従業員は、いずれも現場作業にのみ従事しており、現場の下見は、ほとんど事業主Xが一人で行っていた。
 事業主Xの妻は、Y労基署長に対して、労災保険法に基づく遺族補償給付等の支給を請求したが、Y労基署長は、下見は事業主本来の業務に該当するとし、不支給処分とした。事業主Xの妻は、処分取消しを求めて、訴えを提起した。

 

「下見」は、事業主本来の業務であり、

労働者の業務ではありません。

 

労災に特別加入している間の事故です。

労災事故として認めてください。

 結 論  事業主Xの妻敗訴
 下見行為は営業等の事業に係る業務として行われたものといわざるを得ず、下見行為中に発生した本件事故によるXの死亡は営業等の事業に係る業務に起因するものというべきであるから、Xの妻に遺族補償給付等は支給しない。

労災保険の特別加入において、どの範囲までが業務災害として承認されるか。

⑴ 法28条1項が定める中小事業主の特別加入の制度は、労働者に関し成立している労災保険の保険関係(以下「保険関係」という。)を前提として、当該保険関係上、中小事業主又はその代表者を労働者とみなすことにより、当該中小事業主又はその代表者に対する法の適用を可能とする制度である。そして、法3条1項、労働保険の保険料の徴収等に関する法律3条によれば、保険関係は、労働者を使用する事業について成立するものであり、その成否は当該事業ごとに判断すべきものであるところ、同法4条の2第1項において、保険関係が成立した事業の事業主による政府への届出事項の中に「事業の行われる場所」が含まれており、また、労働保険の保険料の徴収等に関する法律施行規則16条1項に基づき労災保険率の適用区分である同施行規則別表第1所定の事業の種類の細目を定める労災保険率適用事業細目表(昭和47年労働省告示第16号)において、同じ建設事業に附帯して行われる事業の中でも当該建設事業の現場内において行われる事業とそうでない事業とで適用される労災保険率の区別がされているものがあることなどに鑑みると、保険関係の成立する事業は、主として場所的な独立性を基準とし、当該一定の場所において一定の組織の下に相関連して行われる作業の一体を単位として区分されるものと解される。そうすると、土木、建築その他の工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊若しくは解体又はその準備の事業(同施行規則6条2項1号。以下「建設の事業」という。)を行う事業主については、個々の建設等の現場における建築工事等の業務活動と本店等の事務所を拠点とする営業、経営管理その他の業務活動とがそれぞれ別個の事業であって、それぞれその業務の中に労働者を使用するものがあることを前提に、各別に保険関係が成立するものと解される
 したがって、建設の事業を行う事業主が、その使用する労働者を個々の建設等の現場における事業にのみ従事させ、本店等の事務所を拠点とする営業等の事業に従事させていないときは、上記営業等の事業につき保険関係の成立する余地はないから、上記営業等の事業について、当該事業主が法28条1項に基づく特別加入の承認を受けることはできず、上記営業等の事業に係る業務に起因する事業主又はその代表者の死亡等に関し、その遺族等が法に基づく保険給付を受けることはできないものというべきである。
⑵ 前記事実関係等によれば、Y社は、建設の事業である建築工事の請負業を行っていた事業主であるが、その使用する労働者を、個々の建築の現場における事業にのみ従事させ、本店を拠点とする営業等の事業には全く従事させていなかったものといえる。そうすると、Y社については、その請負に係る建築工事が関係する個々の建築の現場における事業につき保険関係が成立していたにとどまり、上記営業等の事業については保険関係が成立していなかったものといわざるを得ない。そのため、労災保険の特別加入の申請においても、Y社は、個々の建築の現場における事業についてのみ保険関係が成立することを前提として、Bが行う業務の内容を当該事業に係る「建築工事施工(8:00~17:00)」とした上で特別加入の承認を受けたものとみるほかはない。
 したがって、Xの遺族である妻は、上記営業等の事業に係る業務に起因するXの死亡に関し、法に基づく保険給付を受けることはできないものというべきところ、前記事実関係等によれば、本件下見行為は上記営業等の事業に係る業務として行われたものといわざるを得ず、本件下見行為中に発生した本件事故によるXの死亡は上記営業等の事業に係る業務に起因するものというべきであるから、Xの妻に遺族補償給付等を支給しない旨の本件各処分を適法とした原審の判断は、結論において是認することができる
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⑴ 法28条1項が定める中小事業主の特別加入の制度は、労働者に関し成立している労災保険の保険関係(以下「保険関係」という。)を前提として、当該保険関係上、中小事業主又はその代表者を労働者とみなすことにより、当該中小事業主又はその代表者に対する法の適用を可能とする制度である。そして、法3条1項、労働保険の保険料の徴収等に関する法律3条によれば、保険関係は、労働者を使用する事業について成立するものであり、その成否は当該事業ごとに判断すべきものであるところ、同法4条の2第1項において、保険関係が成立した事業の事業主による政府への届出事項の中に「事業の行われる場所」が含まれており、また、労働保険の保険料の徴収等に関する法律施行規則16条1項に基づき労災保険率の適用区分である同施行規則別表第1所定の事業の種類の細目を定める労災保険率適用事業細目表(昭和47年労働省告示第16号)において、同じ建設事業に附帯して行われる事業の中でも当該建設事業の現場内において行われる事業とそうでない事業とで適用される労災保険率の区別がされているものがあることなどに鑑みると、保険関係の成立する事業は、主として場所的な独立性を基準とし、当該一定の場所において一定の組織の下に相関連して行われる作業の一体を単位として区分されるものと解される。そうすると、土木、建築その他の工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊若しくは解体又はその準備の事業(同施行規則6条2項1号。以下「建設の事業」という。)を行う事業主については、個々の建設等の現場における建築工事等の業務活動と本店等の事務所を拠点とする営業、経営管理その他の業務活動とがそれぞれ別個の事業であって、それぞれその業務の中に労働者を使用するものがあることを前提に、各別に保険関係が成立するものと解される。
 したがって、建設の事業を行う事業主が、その使用する労働者を個々の建設等の現場における事業にのみ従事させ、本店等の事務所を拠点とする営業等の事業に従事させていないときは、上記営業等の事業につき保険関係の成立する余地はないから、上記営業等の事業について、当該事業主が法28条1項に基づく特別加入の承認を受けることはできず、上記営業等の事業に係る業務に起因する事業主又はその代表者の死亡等に関し、その遺族等が法に基づく保険給付を受けることはできないものというべきである。
⑵ 前記事実関係等によれば、Y社は、建設の事業である建築工事の請負業を行っていた事業主であるが、その使用する労働者を、個々の建築の現場における事業にのみ従事させ、本店を拠点とする営業等の事業には全く従事させていなかったものといえる。そうすると、Y社については、その請負に係る建築工事が関係する個々の建築の現場における事業につき保険関係が成立していたにとどまり、上記営業等の事業については保険関係が成立していなかったものといわざるを得ない。そのため、労災保険の特別加入の申請においても、Y社は、個々の建築の現場における事業についてのみ保険関係が成立することを前提として、Bが行う業務の内容を当該事業に係る「建築工事施工(8:00~17:00)」とした上で特別加入の承認を受けたものとみるほかはない。
 したがって、Xの遺族である妻は、上記営業等の事業に係る業務に起因するXの死亡に関し、法に基づく保険給付を受けることはできないものというべきところ、前記事実関係等によれば、本件下見行為は上記営業等の事業に係る業務として行われたものといわざるを得ず、本件下見行為中に発生した本件事故によるXの死亡は上記営業等の事業に係る業務に起因するものというべきであるから、Xの妻に遺族補償給付等を支給しない旨の本件各処分を適法とした原審の判断は、結論において是認することができる。

過去問

rkh2907C最高裁判所の判例においては、労災保険法第34条第1項が定める中小事業主の特別加入の制度は、労働者に関し成立している労災保険の保険関係を前提として、当該保険関係上、中小事業主又はその代表者を労働者とみなすことにより、当該中小事業主又はその代表者に対する法の適用を可能とする制度である旨解説している。
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