三共自動車事件

三共自動車事件

昭和52年10月25日最高裁判所第三小法廷
ストーリー
 Y社工場において労働者Xが作業中、ワイヤーロープに吊り下げられたバケット(約1,500キロ)が突然その頭上に落下し、下敷きとなって脳挫傷、頸椎骨折等の重傷を負った。
 そこで労働者Xは、Y社に対して民法717条(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)に基づく逸失利益や慰謝料を求めた。
 第一審、原審ともに、労働者Xの主張どおり損害賠償を認めたが、労働者Xが原審において、「将来支給されるべき長期傷病補償給付金の分を損害賠償額(逸失利益)から控除すべきでない」旨の請求については認められなかった。 労働者Xは、この処分を不服として、訴えを提起した。

どうせ継続して給付されるのだから、

将来受けるべき分も損害賠償額から控除します。

どうして、現実にまだ給付されていない分まで

損害賠償額から控除するのですか?

 結 論  労働者X勝訴
 既支給分の年金額を損害賠償額から控除することは認め得るとしても、年金の将来支給分を現在価額の一時金に換算してこれを控除することまでは認められない。
 
 

労災の災害補償が行われると、民事損害賠償は

免責されます。ただし、これが適用されるのは、

「一時金」の場合です。

労災が「年金」給付の場合は、

どうなるんですか?

すでに支払われた年金分は控除されますが、将来支給分は控除できません。

この判例によって、労災法附則64条の「年金給付と損害賠償との調整に関する暫定措置」の規定ができました。

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使用者が賠償すべき損害額から、将来支給予定の年金給付分を控除できるか。

 労働者災害補償保険法に基づく保険給付の実質は、使用者の労働基準法上の災害補償義務を政府が保険給付の形式で行うものであつて、厚生年金保険法に基づく保険給付と同様、受給権者に対する損害の填補の性質をも有するから、事故が使用者の行為によつて生じた場合において、受給権者に対し、政府が労働者災害補償保険法に基づく保険給付をしたときは労働基準法84条2項の規定を類推適用し、また、政府が厚生年金保険法に基づく保険給付をしたときは衡平の理念に照らし、使用者は、同一の事由については、その価額の限度において民法による損害賠償の責を免れると解するのが、相当である。そして、右のように政府が保険給付をしたことによつて、受給権者の使用者に対する損害賠償請求権が失われるのは、右保険給付が損害の填補の性質をも有する以上、政府が現実に保険金を給付して損害を填補したときに限られ、いまだ現実の給付がない以上、たとえ将来にわたり継続して給付されることが確定していても、受給権者は使用者に対し損害賠償の請求をするにあたり、このような将来の給付額を損害賠償債権額から控除することを要しないと解するのが、相当である。
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 労働者災害補償保険法に基づく保険給付の実質は、使用者の労働基準法上の災害補償義務を政府が保険給付の形式で行うものであつて、厚生年金保険法に基づく保険給付と同様、受給権者に対する損害の填補の性質をも有するから、事故が使用者の行為によつて生じた場合において、受給権者に対し、政府が労働者災害補償保険法に基づく保険給付をしたときは労働基準法84条2項の規定を類推適用し、また、政府が厚生年金保険法に基づく保険給付をしたときは衡平の理念に照らし、使用者は、同一の事由については、その価額の限度において民法による損害賠償の責を免れると解するのが、相当である。そして、右のように政府が保険給付をしたことによつて、受給権者の使用者に対する損害賠償請求権が失われるのは、右保険給付が損害の填補の性質をも有する以上、政府が現実に保険金を給付して損害を填補したときに限られ、いまだ現実の給付がない以上、たとえ将来にわたり継続して給付されることが確定していても、受給権者は使用者に対し損害賠償の請求をするにあたり、このような将来の給付額を損害賠償債権額から控除することを要しないと解するのが、相当である。
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