神戸東労基署長(ゴールドリングジャパン)事件
平成16年9月7日最高裁判所第三小法廷
ストーリー
貿易会社の営業職員Xは、海外の顧客とともに大韓民国、台湾、シンガポール、マレーシア、タイ及び香港を回る過酷な日程の下、長時間勤務を続け、この旅行中に穿孔性十二指腸潰瘍を再発した。治療を行った3人の医師は、労働者Xの海外出張中の業務によるストレスのため、慢性十二指腸潰瘍が悪化し、穿孔が起こった可能性が高いとの見解を示した。
労働者Xは、疾病が業務上の疾病であるとして、所轄の神戸東労基署長に対し、労災保険給付の支給申請をしたが、同署長は、当該出張は労働者Xに著しいストレスを与えたものとは認められない上、労働者Xがかねてから十二指腸潰瘍を患っており、その治療を怠っていたことが発症の原因であるとして、労災保険給付の不支給決定をした。労働者Xはこれを不服として訴えを提起した。
貿易会社の営業職員Xは、海外の顧客とともに大韓民国、台湾、シンガポール、マレーシア、タイ及び香港を回る過酷な日程の下、長時間勤務を続け、この旅行中に穿孔性十二指腸潰瘍を再発した。治療を行った3人の医師は、労働者Xの海外出張中の業務によるストレスのため、慢性十二指腸潰瘍が悪化し、穿孔が起こった可能性が高いとの見解を示した。
労働者Xは、疾病が業務上の疾病であるとして、所轄の神戸東労基署長に対し、労災保険給付の支給申請をしたが、同署長は、当該出張は労働者Xに著しいストレスを与えたものとは認められない上、労働者Xがかねてから十二指腸潰瘍を患っており、その治療を怠っていたことが発症の原因であるとして、労災保険給付の不支給決定をした。労働者Xはこれを不服として訴えを提起した。
もともと十二指腸潰瘍だったのに、
通院も投薬もしていなかったのが、
疾病発病の原因ではないか。
疾病発病は、業務上のストレスが原因です。
労災の支給申請を認めてください。
結 論 (労働者X勝訴)
Xが有していた基礎疾患が過重な業務の遂行によりその自然的経過を超えて急激に悪化したことによって発症したものであるから、業務上の疾病である。
Xが有していた基礎疾患が過重な業務の遂行によりその自然的経過を超えて急激に悪化したことによって発症したものであるから、業務上の疾病である。
出張中に発病した疾病に業務起因性は認められるか。
……Xが本件疾病の発症以前にその基礎となり得る素因又は疾患を有していたことは否定し難いが、同基礎疾患等が他に発症因子がなくてもその自然の経過によりせん孔を生ずる寸前にまで進行していたとみることは困難である。……本件各出張は、客観的にみて、特に過重な業務であったということができるところ、本件疾病について、他に確たる発症因子があったことはうかがわれない。そうすると、本件疾病は、Xの有していた基礎疾患等が本件各出張という特に過重な業務の遂行によりその自然の経過を超えて急激に悪化したことによって発症したものとみるのが相当であり、Xの業務の遂行と本件疾病の発症との間に相当因果関係の存在を肯定することができる。本件疾病は、労働者災害補償保険法にいう業務上の疾病に当たるというべきである。
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……Xが本件疾病の発症以前にその基礎となり得る素因又は疾患を有していたことは否定し難いが、同基礎疾患等が他に発症因子がなくてもその自然の経過によりせん孔を生ずる寸前にまで進行していたとみることは困難である。……本件各出張は、客観的にみて、特に過重な業務であったということができるところ、本件疾病について、他に確たる発症因子があったことはうかがわれない。そうすると、本件疾病は、Xの有していた基礎疾患等が本件各出張という特に過重な業務の遂行によりその自然の経過を超えて急激に悪化したことによって発症したものとみるのが相当であり、Xの業務の遂行と本件疾病の発症との間に相当因果関係の存在を肯定することができる。本件疾病は、労働者災害補償保険法にいう業務上の疾病に当たるというべきである。