日本電信電話事件

日本電信電話事件

平成12年3月31日最高裁判所第二小法廷
ストーリー
 Y社は、電話の通話線をアナログ交換機からデジタル交換機への変更を進めていた。このため、デジタル交換機の保守技術者の養成が急務となり、保全科デジタル交換機の訓練が実施された。Y社では、集合訓練は、「職場の代表」として参加するという意味合いをもっていた。
 この集合訓練に参加することとなった労働者Xは、講義4時限が予定されていた日につき、組合休暇願を提出したが、この訓練中は組合休暇を認めることができない旨の回答があったため、年次有給休暇を請求した。Y社はこれも認めず、時季変更権を行使した。しかし、労働者Xは、当該訓練に出席せず、講義も受講しなかった。
 Y社は、訓練の欠席は無断欠勤であるとして、譴責けんせき処分とし、同処分がされたことを理由として減給処分を行った。労働者Xは、時季変更権の行使の無効と賃金の支払いを求めて訴えを提起した。
 

集合訓練の欠席は、「事業の正常な運営を

妨げるもの」です。譴責処分に該当します。

 

時季変更権の行使は違法です。
譴責処分も権利の濫用です。

 結 論  労働者X敗訴
 企業の事業遂行に必要な技術者の養成と能力向上を図るため、各職場の代表者を参加させて、比較的短期間に集中的に高度な知識、技術を修得させ、これを所属の職場に待ち帰らせることによって、各職場全体の業務の改善、向上に資することを目的とした訓練においては、特段の事情がない限り、訓練参加者が訓練を一部でも欠席することは、訓練の目的を達成することができないので、このような訓練期間中に年休が請求されたときは、使用者は、当該請求に係る年休の期間における具体的な訓練の内容が、これを欠席しても予定された知識、技能の修得に不足を不⾜を⽣じさせないものであると認められない限り、年休取得が事業の正常な運営を妨げるものとして時季変更権を⾏使することができる。

研修期間中の年次有給休暇の取得に対し、時季変更権を行使することができるか。

 本件訓練は、Y社の事業遂行に必要なデジタル交換機の保守技術者の養成と能力向上を図るため、各職場の代表を参加させて、1箇月に満たない比較的短期間に集中的に高度な知識、技能を修得させ、これを所属の職場に待ち帰らせることによって、各職場全体の業務の改善、向上に資することを目的として行われたものということができる。このような期間、目的の訓練においては、特段の事情のない限り、訓練参加者が訓練を一部でも欠席することは、予定された知識、技能の修得に不足を生じさせ、訓練の目的を十全に達成することができない結果を招くものというべきである。したがって、このような訓練の期間中に年休が請求されたときは、使用者は、当該請求に係る年休の期間における具体的な訓練の内容が、これを欠席しても予定された知識、技能の修得に不足を生じさせないものであると認められない限り、年休取得が事業の正常な運営を妨げるものとして時季変更権を行使することができると解される。Xは、本件訓練において修得することが不可欠とされ、そのため従前の講義時間が2倍に増やされていた共通線に関する講義6時限のうち最初の4時限が行われる日について年休を請求したというのであるから、当日の講義を欠席することは、本件訓練において予定された知識、技能の修得に不足を生じさせるおそれが高いものといわなければならない。しかも、Xは、交換課の平成元年度における唯一の代表として保全科デジタル交換機応用班の訓練に参加していたのであるから、Xの右修得不足は、ひいては、交換課全体の業務の改善、向上に悪影響を及ぼすことにつながるものということができる。
 原審は、右講義には教科書があるから自習が可能であること、Xの所属していた職場である交換課は共通線信号処理装置にかかわる業務を担当していたことなどを根拠に、Xの努力により欠席した4時限の講義内容を補うことが十分可能であるなどとして、右欠席が本件訓練の目的達成を困難にするとはいえないと判断している。しかしながら、通常は、教科書に基づいて自習することをもって4時限の講義によるのと同程度の知識、技能の修得が可能であるとは解されず(参加者に教科書等に基づく自習による場合よりも高い程度の知識、技能を修得させるために、本件訓練のような形態の研修が行われるものというべきである。)、6時限の講義のうち最初の4時限を欠席した者が残る2時限の講義を受講することで不足を補うことも困難である。のみならず、そもそも、被上告人が自習をすることはX自身の意思に懸かっており、Y社は、時季変更権を行使するか否かを決定するに際して、右自習がされることを前提とすることができないから、自習がされない場合における事業の運営への影響を考慮することが許されるものというべきである。また、交換課の右の担当業務や被上告人の前記職歴から、Xが右講義において修得することが予定されていた知識、技能をあらかじめ有していたと即断することはできない。Xが本件訓練をおおむね普通以上の評価をもって終了したことも、時季変更権行使の時点ではY社の予見し得ない事情にすぎない上、右講義において予定されていた知識、技能の修得に不足を生じなかったことを直ちに裏付けるに足りる事情ということもできない。集合訓練中の年休取得の事例や年休の取扱いに関する原判示の事実も、本件における年休の取得が本件訓練の目的達成を困難にすると判断することを妨げるものとはいえない。
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本件訓練は、Y社の事業遂行に必要なデジタル交換機の保守技術者の養成と能力向上を図るため、各職場の代表を参加させて、1箇月に満たない比較的短期間に集中的に高度な知識、技能を修得させ、これを所属の職場に待ち帰らせることによって、各職場全体の業務の改善、向上に資することを目的として行われたものということができる。このような期間、目的の訓練においては、特段の事情のない限り、訓練参加者が訓練を一部でも欠席することは、予定された知識、技能の修得に不足を生じさせ、訓練の目的を十全に達成することができない結果を招くものというべきである。したがって、このような訓練の期間中に年休が請求されたときは、使用者は、当該請求に係る年休の期間における具体的な訓練の内容が、これを欠席しても予定された知識、技能の修得に不足を生じさせないものであると認められない限り、年休取得が事業の正常な運営を妨げるものとして時季変更権を行使することができると解される。Xは、本件訓練において修得することが不可欠とされ、そのため従前の講義時間が2倍に増やされていた共通線に関する講義6時限のうち最初の4時限が行われる日について年休を請求したというのであるから、当日の講義を欠席することは、本件訓練において予定された知識、技能の修得に不足を生じさせるおそれが高いものといわなければならない。しかも、Xは、交換課の平成元年度における唯一の代表として保全科デジタル交換機応用班の訓練に参加していたのであるから、Xの右修得不足は、ひいては、交換課全体の業務の改善、向上に悪影響を及ぼすことにつながるものということができる。
 原審は、右講義には教科書があるから自習が可能であること、Xの所属していた職場である交換課は共通線信号処理装置にかかわる業務を担当していたことなどを根拠に、Xの努力により欠席した4時限の講義内容を補うことが十分可能であるなどとして、右欠席が本件訓練の目的達成を困難にするとはいえないと判断している。しかしながら、通常は、教科書に基づいて自習することをもって4時限の講義によるのと同程度の知識、技能の修得が可能であるとは解されず(参加者に教科書等に基づく自習による場合よりも高い程度の知識、技能を修得させるために、本件訓練のような形態の研修が行われるものというべきである。)、6時限の講義のうち最初の4時限を欠席した者が残る2時限の講義を受講することで不足を補うことも困難である。のみならず、そもそも、被上告人が自習をすることはX自身の意思に懸かっており、Y社は、時季変更権を行使するか否かを決定するに際して、右自習がされることを前提とすることができないから、自習がされない場合における事業の運営への影響を考慮することが許されるものというべきである。また、交換課の右の担当業務や被上告人の前記職歴から、Xが右講義において修得することが予定されていた知識、技能をあらかじめ有していたと即断することはできない。Xが本件訓練をおおむね普通以上の評価をもって終了したことも、時季変更権行使の時点ではY社の予見し得ない事情にすぎない上、右講義において予定されていた知識、技能の修得に不足を生じなかったことを直ちに裏付けるに足りる事情ということもできない。集合訓練中の年休取得の事例や年休の取扱いに関する原判示の事実も、本件における年休の取得が本件訓練の目的達成を困難にすると判断することを妨げるものとはいえない。

 

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