老齢年金支給請求、同参加申立て事件

老齢年金支給請求、同参加申立て事件

平成7年11月7日最高裁判所第三小法廷
ストーリー
 Aは、障害福祉年金を受給していたが、国民年金の保険料も納付していたため、老齢年金についても裁定請求をしたが、併給調整される障害福祉年金と老齢年金について、選択の届出書を提出していなかったため、社会保険庁長官らは、高い金額の年金を選択したものとみなし、低い金額の老齢年金を支給停止した。これに対しAは、支給停止措置は違憲だとして、訴えを提訴した。ところが、Aは、訴訟中に死亡したため、相続人であるXは、相続によりAの老齢年金請求権を取得し、原告の地位を当然承継したと主張した。
 これに対し、第一審は訴訟の対象である権利は、一身専属的なもので相続の対象とならないとし、Aの死亡により訴訟は終了したと判示した。相続人Xは、原判決の取消しを求めて訴えを提起した。

 

死んだ父の裁判は相続人である私が

引き継ぎます。

 

年金は一身専属的な性格です。死亡により受給権は消滅します。

譲渡も禁止されています。裁判は終了です。

未支給年金については、別途、手続きを踏んでください。

 

 結 論  相続人X敗訴
 年金は相続の対象となるものでないことは明らかである。又、遺族は、未支給年金の支給決定を受けるまでは、死亡した受給権者が有していた未支給年金に係る請求権を確定的に取得したということはできず、支給請求とこれに対する処分を経ないで未支給年金を請求することはできない。

未支給年金の支給を受けるためには、どのような要件が必要か。

 国民年金法19条1項は、「年金給付の受給権者が死亡した場合において、その死亡した者に支給すべき年金給付でまだその者に支給しなかったものがあるときは、その者の配偶者、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹であって、その者の死亡の当時その者と生計を同じくしていたものは、自己の名で、その未支給の年金の支給を請求することができる。」と定め、同条5項は、「未支給の年金を受けるべき者の順位は、第1項に規定する順序による。」と定めている。右の規定は、相続とは別の立場から一定の遺族に対して未支給の年金給付の支給を認めたものであり、死亡した受給権者が有していた右年金給付に係る請求権が同条の規定を離れて別途相続の対象となるものでないことは明らかである
 また、同条1項所定の遺族は、死亡した受給権者が有していた請求権を同項の規定に基づき承継的に取得するものと理解することができるが、以下に述べるとおり、自己が所定の遺族に当たるとしてその権利を行使するためには、社会保険庁長官に対する請求をし、同長官の支給の決定を受けることが必要であると解するのが相当である。同法16条は、給付を受ける権利は、受給権者の請求に基づき社会保険庁長官が裁定するものとしているが、これは、画一公平な処理により無用の紛争を防止し、給付の法的確実性を担保するため、その権利の発生要件の存否や金額等につき同長官が公権的に確認するのが相当であるとの見地から、基本権たる受給権について、同長官による裁定を受けて初めて年金の支給が可能となる旨を明らかにしたものである。同法19条1項により遺族が取得するのは支分権たる請求権ではあるが、同法16条の趣旨に照らして考えると、右19条1項にいう請求は裁定の請求に準じて社会保険庁長官に対してすべきものであり(現に国民年金法施行規則は、同法19条の規定による未支給年金の支給の請求は所定の請求書を同長官に提出することによって行うべき旨を定めている)、これに対して同長官が応答することが予定されているものと解される。そして、社会保険庁長官の応答は、請求をした者が請求権を有する所定の遺族に当たるか否かを統一的見地から公権的に確認するものであり、不服申立ての対象を定めた同法101条1項にいう「給付に関する処分」に当たるものと解するのが相当である。したがって、同法19条1項所定の遺族は、社会保険庁長官による未支給年金の支給決定を受けるまでは、死亡した受給権者が有していた未支給年金に係る請求権を確定的に取得したということはできず、同長官に対する支給請求とこれに対する処分を経ないで訴訟上未支給年金を請求することはできないものといわなければならない。そうすると、Xは、本件訴訟とは別に社会保険庁長官に対する支給請求をした上で、必要があればこれに対する処分を争うべきものであって、Xにおいて亡Aの本件訴訟上の地位を承継することを認めることはできない
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 国民年金法19条1項は、「年金給付の受給権者が死亡した場合において、その死亡した者に支給すべき年金給付でまだその者に支給しなかったものがあるときは、その者の配偶者、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹であって、その者の死亡の当時その者と生計を同じくしていたものは、自己の名で、その未支給の年金の支給を請求することができる。」と定め、同条5項は、「未支給の年金を受けるべき者の順位は、第1項に規定する順序による。」と定めている。右の規定は、相続とは別の立場から一定の遺族に対して未支給の年金給付の支給を認めたものであり、死亡した受給権者が有していた右年金給付に係る請求権が同条の規定を離れて別途相続の対象となるものでないことは明らかである。
 また、同条1項所定の遺族は、死亡した受給権者が有していた請求権を同項の規定に基づき承継的に取得するものと理解することができるが、以下に述べるとおり、自己が所定の遺族に当たるとしてその権利を行使するためには、社会保険庁長官に対する請求をし、同長官の支給の決定を受けることが必要であると解するのが相当である。同法16条は、給付を受ける権利は、受給権者の請求に基づき社会保険庁長官が裁定するものとしているが、これは、画一公平な処理により無用の紛争を防止し、給付の法的確実性を担保するため、その権利の発生要件の存否や金額等につき同長官が公権的に確認するのが相当であるとの見地から、基本権たる受給権について、同長官による裁定を受けて初めて年金の支給が可能となる旨を明らかにしたものである。同法19条1項により遺族が取得するのは支分権たる請求権ではあるが、同法16条の趣旨に照らして考えると、右19条1項にいう請求は裁定の請求に準じて社会保険庁長官に対してすべきものであり(現に国民年金法施行規則は、同法19条の規定による未支給年金の支給の請求は所定の請求書を同長官に提出することによって行うべき旨を定めている)、これに対して同長官が応答することが予定されているものと解される。そして、社会保険庁長官の応答は、請求をした者が請求権を有する所定の遺族に当たるか否かを統一的見地から公権的に確認するものであり、不服申立ての対象を定めた同法101条1項にいう「給付に関する処分」に当たるものと解するのが相当である。したがって、同法19条1項所定の遺族は、社会保険庁長官による未支給年金の支給決定を受けるまでは、死亡した受給権者が有していた未支給年金に係る請求権を確定的に取得したということはできず、同長官に対する支給請求とこれに対する処分を経ないで訴訟上未支給年金を請求することはできないものといわなければならない。そうすると、Xは、本件訴訟とは別に社会保険庁長官に対する支給請求をした上で、必要があればこれに対する処分を争うべきものであって、Xにおいて亡Aの本件訴訟上の地位を承継することを認めることはできない。

過去問

ku2705A最高裁判所の判例によると、国民年金法第19条第1項に規定する未支給年金を受給できる遺族は、厚生労働大臣による未支給年金の支給決定を受けることなく、未支給年金に係る請求権を確定的に有しており、厚生労働大臣に対する支給請求とこれに対する処分を経ないで訴訟上、未支給年金を請求できる、と解するのが相当であるとされている。
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