電通事件

電通事件

平成12年3月24日最高裁判所第二小法廷
ストーリー
 新入社員Xは、40社以上のスポンサーを担当し、一時に数社に対するタイムセールス、イベントの企画立案等を行い、スポンサーの窓口職員との折衝にあたっていた。当時の1か月あたりの残業時間は147時間にも及び、労働者Xはその後うつ病にかかり、自殺した。
 労働者Xの両親が労働者Xの自殺は会社の責任であるとして訴えた一審は、Y社の全面的な責任を認め、両親に対する損害賠償を命じた。二審は、会社の損害賠償責任を認めたが、労働者X及び両親に自殺を回避する措置をとり得たのにその措置を講じなかったとして、過失相殺により損害賠償額を減額したため、労働者Xの両親らは訴えを提起した。

 

息子は、長時間労働によりうつ病になり、

そして自殺した。原因は会社にある。

会社では、長時間労働を把握し、本人には早めに帰宅し、

睡眠を取るように指導していた。

 結 論  労働者Xの両親勝訴
 長時間労働によりうつ病となり自殺したことには、業務との間に相当因果関係があり、これを認識しながら労働時間の軽減に関する具体的措置をとらなかったY社には、Xの両親に対し損害を賠償する義務がある。又、X及び両親の事態改善についての対応の不備を理由とする過失相殺も行わない。

長時間労働により社員が自殺した場合、会社に損害賠償責任はあるか。

 労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険のあることは、周知のところである。労働基準法は、労働時間に関する制限を定め、労働安全衛生法65条の3(作業の管理)は、作業の内容等を特に限定することなく、同法所定の事業者は労働者の健康に配慮して労働者 anh16D を適切に anh16E するように努めるべき旨を定めているが、それは、右のような危険が発生するのを防止することをも目的とするものと解される。これらのことからすれば、使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当であり、使用者に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は、使用者の右注意義務の内容に従って、その権限を行使すべきである。
 原審は、……うつ病の発症等に関する……知見を考慮し、Xの業務の遂行とそのうつ病り患による自殺との間には相当因果関係があるとした上、Xの上司であるA及びBには、Xが恒常的に著しく長時間にわたり業務に従事していること及びその健康状態が悪化していることを認識しながら、その負担を軽減させるための措置を採らなかったことにつき過失があるとして、一審被告の民法715条(使用者等の責任)に基づく損害賠償責任を肯定したものであって、その判断は正当として是認することができる
 身体に対する加害行為を原因とする被害者の損害賠償請求において、裁判所は、加害者の賠償すべき額を決定するに当たり、損害を公平に分担させるという損害賠償法の理念に照らし、民法722条2項(損害賠償の方法及び過失相殺)の過失相殺の規定を類推適用して、損害の発生又は拡大に寄与した被害者の性格等の心因的要因を一定の限度でしんしゃくすることができるこの趣旨は、労働者の業務の負担が過重であることを原因とする損害賠償請求においても、基本的に同様に解すべきものである(=過重労働においても被害者の心因的要因を加味する過失相殺をすることができる。)。
 しかしながら、企業等に雇用される労働者の性格が多様のものであることはいうまでもないところ、ある業務に従事する特定の労働者の性格が同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲の外れるものでない限り(=被害者の個性が特異なものでない限り)、その性格及びこれに基づく業務遂行の態様等が業務の過重負担に起因して当該労働者に生じた損害の発生又は拡大に寄与したとしても、そのような事態は使用者として予想すべき(=過失相殺を主張できない)ものということができる。しかも、使用者又はこれに代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う者は、各労働者がその従事すべき業務に適するか否かを判断して、その配置先、遂行すべき業務の内容等を定めるのであり、その際に、各労働者の性格をも考慮することができるのである。
 したがって、労働者の性格が前記の範囲を外れるものでない場合には、裁判所は、業務の負担が過重であることを原因とする損害賠償請求において使用者の賠償すべき額を決定するに当たり、その性格及びこれに基づく業務遂行の態様等を、心因的要因としてしんしゃくすることはできないというべきである。
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 労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険のあることは、周知のところである。労働基準法は、労働時間に関する制限を定め、労働安全衛生法65条の3(作業の管理)は、作業の内容等を特に限定することなく、同法所定の事業者は労働者の健康に配慮して労働者の従事する作業を適切に管理するように努めるべき旨を定めているが、それは、右のような危険が発生するのを防止することをも目的とするものと解される。これらのことからすれば、使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当であり、使用者に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は、使用者の右注意義務の内容に従って、その権限を行使すべきである。
 原審は、……うつ病の発症等に関する……知見を考慮し、Xの業務の遂行とそのうつ病り患による自殺との間には相当因果関係があるとした上、Xの上司であるA及びBには、Xが恒常的に著しく長時間にわたり業務に従事していること及びその健康状態が悪化していることを認識しながら、その負担を軽減させるための措置を採らなかったことにつき過失があるとして、一審被告の民法715条(使用者等の責任)に基づく損害賠償責任を肯定したものであって、その判断は正当として是認することができる。
 身体に対する加害行為を原因とする被害者の損害賠償請求において、裁判所は、加害者の賠償すべき額を決定するに当たり、損害を公平に分担させるという損害賠償法の理念に照らし、民法722条2項(損害賠償の方法及び過失相殺)の過失相殺の規定を類推適用して、損害の発生又は拡大に寄与した被害者の性格等の心因的要因を一定の限度でしんしゃくすることができる。この趣旨は、労働者の業務の負担が過重であることを原因とする損害賠償請求においても、基本的に同様に解すべきものである(=過重労働においても被害者の心因的要因を加味する過失相殺をすることができる。)。
 しかしながら、企業等に雇用される労働者の性格が多様のものであることはいうまでもないところ、ある業務に従事する特定の労働者の性格が同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲の外れるものでない限り(=被害者の個性が特異なものでない限り)、その性格及びこれに基づく業務遂行の態様等が業務の過重負担に起因して当該労働者に生じた損害の発生又は拡大に寄与したとしても、そのような事態は使用者として予想すべき(=過失相殺を主張できない)ものということができる。しかも、使用者又はこれに代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う者は、各労働者がその従事すべき業務に適するか否かを判断して、その配置先、遂行すべき業務の内容等を定めるのであり、その際に、各労働者の性格をも考慮することができるのである。
 したがって、労働者の性格が前記の範囲を外れるものでない場合には、裁判所は、業務の負担が過重であることを原因とする損害賠償請求において使用者の賠償すべき額を決定するに当たり、その性格及びこれに基づく業務遂行の態様等を、心因的要因としてしんしゃくすることはできないというべきである。

 
【過失相殺】
 請求者の側にも過失があったときに裁判所がその過失を考慮して賠償額を減額すること (民法417条、722条2項) 。
【損害賠償の方法及び過失相殺(民法722条)】
 ① 第417条(損害賠償の方法)の規定は、不法行為による損害賠償について準用する。
 ② 被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。

過去問

ri2501B使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うとするのが、最高裁判所の判例である。
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anh16DE2 いわゆる過労自殺に関する最高裁判所のある判決によれば、「労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険のあることは、周知のところである。労働基準法は、労働時間に関する制限を定め、労働安全衛生法65条の3は、作業の内容等を特に限定することなく、同法所定の事業者は労働者の健康に配慮して労働者 anh16D を適切に anh16E するように努めるべき旨を定めているが、それは、右のような危険が発生するのを防止することをも目的とするものと解される。」と述べられている。
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D の従事する作業
E 管理


 

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