フォーカスシステムズ事件
平成27年3月4日最高裁判所大法廷
ストーリー
過度の飲酒による急性アルコール中毒から心停止に至り死亡したシステムエンジニアXの相続人らが、労働者Xが死亡したのは、長時間労働等による心理的負荷の蓄積によって精神障害を発症し、正常な判断能力を欠く状態で飲酒をしたためであると主張して、労働者Xを雇用していたY社に対し、安全配慮義務違反として、不法行為又は債務不履行に基づき、損害賠償を求めた。
一審、二審ともに損害賠償請求は認められたものの、既に支払いが行われた遺族補償年金分を損害賠償と相殺するにあたって、二審は賠償額の元本から差引くこととした。労働者Xの相続人らは、この処分を不服として、訴えを提起した。
過度の飲酒による急性アルコール中毒から心停止に至り死亡したシステムエンジニアXの相続人らが、労働者Xが死亡したのは、長時間労働等による心理的負荷の蓄積によって精神障害を発症し、正常な判断能力を欠く状態で飲酒をしたためであると主張して、労働者Xを雇用していたY社に対し、安全配慮義務違反として、不法行為又は債務不履行に基づき、損害賠償を求めた。
一審、二審ともに損害賠償請求は認められたものの、既に支払いが行われた遺族補償年金分を損害賠償と相殺するにあたって、二審は賠償額の元本から差引くこととした。労働者Xの相続人らは、この処分を不服として、訴えを提起した。
すでに支払いが行われた労災給付分は、
「元本」と相殺します。
すでに支払いが行われた労災給付分は、
「遅延損害金」から優先的に相殺してください。
【民法(法491条1項)】
債務者が一個又は数個の債務について元本のほか利息及び費用を支払うべき場合において、弁済をする者がその債務の全部を消滅させるのに足りない給付をしたときは、これを順次に費用、利息及び元本に充当しなければならない。(利息優先)
債務者が一個又は数個の債務について元本のほか利息及び費用を支払うべき場合において、弁済をする者がその債務の全部を消滅させるのに足りない給付をしたときは、これを順次に費用、利息及び元本に充当しなければならない。(利息優先)
平成16年の判決では、「遅延損害金」とまず相殺すべき、
平成22年の判決では、「元本」とまず相殺すべき、
と、判決が分かれていました。
民法では、「遅延損害金(利息)」優先ですが…、
結 論 (Xの相続人ら敗訴)
労災保険は、労災事故で得られなくなった収入などを補填するもので、支払いの遅れを理由とする遅延損害金とは性質が異なる。したがって、性質が同じで相互に補完性のある損害額の「元本」と相殺すべきである。 高田建設事件
労災保険は、労災事故で得られなくなった収入などを補填するもので、支払いの遅れを理由とする遅延損害金とは性質が異なる。したがって、性質が同じで相互に補完性のある損害額の「元本」と相殺すべきである。 高田建設事件
労災保険は、労災事故で得られなくなった収入を補填するものですから、遅延損害金とは性質が異なります。
性質が同じものである損害額の「元本」との間で相殺するのが妥当ということになり、平成22年判決で統一される結果になりました。
損害賠償額から労災給付分を相殺するときは、賠償額の「元本」からか「利息」からか。
被害者が不法行為によって死亡し、その損害賠償請求権を取得した相続人が不法行為と同一の原因によって利益を受ける場合には、損害と利益との間に同質性がある限り、公平の見地から、その利益の額を相続人が加害者に対して賠償を求める損害額から控除することによって損益相殺的※な調整を図ることが必要なときがあり得る。そして、上記の相続人が受ける利益が、被害者の死亡に関する労災保険法に基づく保険給付であるときは、民事上の損害賠償の対象となる損害のうち、当該保険給付による塡補の対象となる損害と同性質であり、かつ、相互補完性を有するものについて、損益相殺的な調整を図るべきものと解される。
労災保険法に基づく保険給付は、その制度の趣旨目的に従い、特定の損害について必要額を塡補するために支給されるものであり、遺族補償年金は、労働者の死亡による遺族の被扶養利益の喪失を塡補することを目的とするものであって(労災保険法1条、16条の2から16条の4まで)、その塡補の対象とする損害は、被害者の死亡による逸失利益等の消極損害と同性質であり、かつ、相互補完性があるものと解される。他方、損害の元本に対する遅延損害金に係る債権は、飽くまでも債務者の履行遅滞を理由とする損害賠償債権であるから、遅延損害金を債務者に支払わせることとしている目的は、遺族補償年金の目的とは明らかに異なるものであって、遺族補償年金による塡補の対象となる損害が、遅延損害金と同性質であるということも、相互補完性があるということもできない。
したがって、被害者が不法行為によって死亡した場合において、その損害賠償請求権を取得した相続人が遺族補償年金の支給を受け、又は支給を受けることが確定したときは、損害賠償額を算定するに当たり、上記の遺族補償年金につき、その塡補の対象となる被扶養利益の喪失による損害と同性質であり、かつ、相互補完性を有する逸失利益等の消極損害の元本との間で、損益相殺的な調整を行うべきものと解するのが相当である。
……以上によれば、被害者が不法行為によって死亡した場合において、その損害賠償請求権を取得した相続人が遺族補償年金の支給を受け、又は支給を受けることが確定したときは、制度の予定するところと異なってその支給が著しく遅滞するなどの特段の事情のない限り、その塡補の対象となる損害は不法行為の時に塡補されたものと法的に評価して損益相殺的な調整をすることが公平の見地からみて相当であるというべきである。
労災保険法に基づく保険給付は、その制度の趣旨目的に従い、特定の損害について必要額を塡補するために支給されるものであり、遺族補償年金は、労働者の死亡による遺族の被扶養利益の喪失を塡補することを目的とするものであって(労災保険法1条、16条の2から16条の4まで)、その塡補の対象とする損害は、被害者の死亡による逸失利益等の消極損害と同性質であり、かつ、相互補完性があるものと解される。他方、損害の元本に対する遅延損害金に係る債権は、飽くまでも債務者の履行遅滞を理由とする損害賠償債権であるから、遅延損害金を債務者に支払わせることとしている目的は、遺族補償年金の目的とは明らかに異なるものであって、遺族補償年金による塡補の対象となる損害が、遅延損害金と同性質であるということも、相互補完性があるということもできない。
したがって、被害者が不法行為によって死亡した場合において、その損害賠償請求権を取得した相続人が遺族補償年金の支給を受け、又は支給を受けることが確定したときは、損害賠償額を算定するに当たり、上記の遺族補償年金につき、その塡補の対象となる被扶養利益の喪失による損害と同性質であり、かつ、相互補完性を有する逸失利益等の消極損害の元本との間で、損益相殺的な調整を行うべきものと解するのが相当である。
……以上によれば、被害者が不法行為によって死亡した場合において、その損害賠償請求権を取得した相続人が遺族補償年金の支給を受け、又は支給を受けることが確定したときは、制度の予定するところと異なってその支給が著しく遅滞するなどの特段の事情のない限り、その塡補の対象となる損害は不法行為の時に塡補されたものと法的に評価して損益相殺的な調整をすることが公平の見地からみて相当であるというべきである。
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被害者が不法行為によって死亡し、その損害賠償請求権を取得した相続人が不法行為と同一の原因によって利益を受ける場合には、損害と利益との間に同質性がある限り、公平の見地から、その利益の額を相続人が加害者に対して賠償を求める損害額から控除することによって損益相殺的※な調整を図ることが必要なときがあり得る。そして、上記の相続人が受ける利益が、被害者の死亡に関する労災保険法に基づく保険給付であるときは、民事上の損害賠償の対象となる損害のうち、当該保険給付による塡補の対象となる損害と同性質であり、かつ、相互補完性を有するものについて、損益相殺的な調整を図るべきものと解される。
労災保険法に基づく保険給付は、その制度の趣旨目的に従い、特定の損害について必要額を塡補するために支給されるものであり、遺族補償年金は、労働者の死亡による遺族の被扶養利益の喪失を塡補することを目的とするものであって(労災保険法1条、16条の2から16条の4まで)、その塡補の対象とする損害は、被害者の死亡による逸失利益等の消極損害と同性質であり、かつ、相互補完性があるものと解される。他方、損害の元本に対する遅延損害金に係る債権は、飽くまでも債務者の履行遅滞を理由とする損害賠償債権であるから、遅延損害金を債務者に支払わせることとしている目的は、遺族補償年金の目的とは明らかに異なるものであって、遺族補償年金による塡補の対象となる損害が、遅延損害金と同性質であるということも、相互補完性があるということもできない。
したがって、被害者が不法行為によって死亡した場合において、その損害賠償請求権を取得した相続人が遺族補償年金の支給を受け、又は支給を受けることが確定したときは、損害賠償額を算定するに当たり、上記の遺族補償年金につき、その塡補の対象となる被扶養利益の喪失による損害と同性質であり、かつ、相互補完性を有する逸失利益等の消極損害の元本との間で、損益相殺的な調整を行うべきものと解するのが相当である。
……以上によれば、被害者が不法行為によって死亡した場合において、その損害賠償請求権を取得した相続人が遺族補償年金の支給を受け、又は支給を受けることが確定したときは、制度の予定するところと異なってその支給が著しく遅滞するなどの特段の事情のない限り、その塡補の対象となる損害は不法行為の時に塡補されたものと法的に評価して損益相殺的な調整をすることが公平の見地からみて相当であるというべきである。
労災保険法に基づく保険給付は、その制度の趣旨目的に従い、特定の損害について必要額を塡補するために支給されるものであり、遺族補償年金は、労働者の死亡による遺族の被扶養利益の喪失を塡補することを目的とするものであって(労災保険法1条、16条の2から16条の4まで)、その塡補の対象とする損害は、被害者の死亡による逸失利益等の消極損害と同性質であり、かつ、相互補完性があるものと解される。他方、損害の元本に対する遅延損害金に係る債権は、飽くまでも債務者の履行遅滞を理由とする損害賠償債権であるから、遅延損害金を債務者に支払わせることとしている目的は、遺族補償年金の目的とは明らかに異なるものであって、遺族補償年金による塡補の対象となる損害が、遅延損害金と同性質であるということも、相互補完性があるということもできない。
したがって、被害者が不法行為によって死亡した場合において、その損害賠償請求権を取得した相続人が遺族補償年金の支給を受け、又は支給を受けることが確定したときは、損害賠償額を算定するに当たり、上記の遺族補償年金につき、その塡補の対象となる被扶養利益の喪失による損害と同性質であり、かつ、相互補完性を有する逸失利益等の消極損害の元本との間で、損益相殺的な調整を行うべきものと解するのが相当である。
……以上によれば、被害者が不法行為によって死亡した場合において、その損害賠償請求権を取得した相続人が遺族補償年金の支給を受け、又は支給を受けることが確定したときは、制度の予定するところと異なってその支給が著しく遅滞するなどの特段の事情のない限り、その塡補の対象となる損害は不法行為の時に塡補されたものと法的に評価して損益相殺的な調整をすることが公平の見地からみて相当であるというべきである。
【損益相殺】
被害者又は債権者が受けた利益額を損害賠償額から控除すること。
被害者又は債権者が受けた利益額を損害賠償額から控除すること。
過去問
rsh2906B労働者が使用者の不法行為によって死亡し、その損害賠償請求権を取得した相続人が遺族補償年金の支給を受けることが確定したときは、損害賠償額を算定するにあたり、当該遺族補償年金の填補の対象となる損害は、特段の事情のない限り、不法行為の時に填補されたものと法的に評価して、損益相殺的な調整をすることが相当であるとするのが、最高裁判所の判例の趣旨である。
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