エヌ・ビー・シー工業事件

エヌ・ビー・シー工業事件

昭和60年7月16日最高裁判所第三小法廷
ストーリー
 Y社には2つの労働組合A及びBがあるが、A組合に所属する女子従業員の生理休暇取得率はB組合所属従業員及び他企業従業員に比べて著しく高く、その取得した生理休暇のうちには労働基準法67条の要件を欠くものがかなりあったものと推認されていた。
 また、A組合所属の女子従業員の出勤率は悪く、しかも徐々に低下傾向にあったため、Y社は作業能率の低下による経営悪化を憂慮し、その打開策として出勤率向上を図るため「精皆勤手当」を設けることとした。なお、生理休暇取得日数は出勤不足日数に算入される旨、口頭で約されている。

 Y社は、生理1回当たり2日間に限り生理休暇取得者に「不就業手当」として基本給相当額を支給していたが、「生理休暇取得日を出勤不足日数とする」取扱いをすると、精皆勤手当だけでなく、夏期年末の一時金等にまで影響が及び、不就業手当の支給では到底カバーできない損失を被るとして、労働者Xらは訴えを提起した。

 

新たに精皆勤手当を設けました。

ただし、生理休暇取得日は欠勤扱いです。

生理休暇を欠勤扱いとすることは、

労働基準法の趣旨を失わせる規定です。

 
 
 結 論  労働者Xら敗訴
 精皆勤手当の算定に当たって生理休暇取得日を欠勤扱いとする措置は、労働者が失う経済的利益の程度を勘案しても、生理休暇の取得を困難にし、労働基準法67条の趣旨を失わせるものとは認められない。(労働者Xら敗訴)

精皆勤手当の算定において、生理休暇取得日を欠勤扱いとすることは可能か。

 労働者が生理休暇を請求したときは、その者を就業させてはならない旨規定しているが、年次有給休暇については同法39条4項においてその期間所定の賃金等を支払うべきことが定められているのに対し、生理休暇についてはそのような規定が置かれていないことを考慮すると、その趣旨は、当該労働者が生理休暇の請求をすることによりその間の就労義務を免れ、その労務の不提供につき労働契約上債務不履行の責めを負うことのないことを定めたにとどまり、生理休暇が有給であることまでをも保障したものではないと解するのが相当である。したがって、生理休暇を取得した労働者は、その間就労していないのであるから、労使間に特段の合意がない限り、その不就労期間に対応する賃金請求権を有しないものというべきである。また、労働基準法12条3項及び同法39条5項によると、生理休暇は、同法65条所定の産前産後の休業と異なり、平均賃金の計算や年次有給休暇の基礎となる出勤日の算定について特別の扱いを受けるものとはされておらず、これらの規定に徴すると、同法67条は、使用者に対し生理休暇取得日を出勤扱いにすることまでも義務づけるものではなく、これを出勤扱いにするか欠勤扱いにするかは原則として労使間の合意に委ねられているものと解することができる。
 ところで、使用者が、労働協約又は労働者との合意により、労働者が生理休暇を取得しそれが欠勤扱いとされることによって何らかの形で経済的利益を得られない結果となるような措置ないし制度を設けたときには、その内容いかんによっては生理休暇の取得が事実上抑制される場合も起こりうるが、労働基準法67条の上述のような趣旨に照らすと、このような措置ないし制度は、その趣旨、目的、労働者が失う経済的利益の程度、生理休暇の取得に対する事実上の抑止力の強弱等諸般の事情を総合して、生理休暇の取得を著しく困難とし同法が女子労働者の保護を目的として生理休暇について特に規定を設けた趣旨を失わせるものと認められるのでない限り、これを同条に違反するものとすることはできないというべきである。
 右の事実関係の下においては、Y社が精皆勤手当を創設し次いでその金額を2倍に増額したのは、所定の要件を欠く生理休暇及び自己都合欠勤を減少させて出勤率の向上を図ることを目的としたものであって、生理休暇の取得を一般的に抑制する趣旨に出たものではないとみるのが相当であり、また、同手当の算定にあたって生理休暇の取得日数を出勤不足日数に算入することにより労働者が失う上記のような経済的利益の程度を勘案しても、かかる措置は、生理休暇の取得を著しく困難とし労働基準法が女子労働者の保護を目的として生理休暇について特に規定を設けた趣旨を失わせるものとは認められないから、同法67条に違反するものとはいえず、また同法1条2項、13条に違反するものでもない。そして、右の措置により精皆勤手当を減額することが、生理休暇取得者に対し減給の制裁を定めたものといえないことはもとより、懲罰、損害賠償の予約と同視すべきものともいえないから、これをもって同法91条に違反するということはできない。
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 労働者が生理休暇を請求したときは、その者を就業させてはならない旨規定しているが、年次有給休暇については同法39条4項においてその期間所定の賃金等を支払うべきことが定められているのに対し、生理休暇についてはそのような規定が置かれていないことを考慮すると、その趣旨は、当該労働者が生理休暇の請求をすることによりその間の就労義務を免れ、その労務の不提供につき労働契約上債務不履行の責めを負うことのないことを定めたにとどまり、生理休暇が有給であることまでをも保障したものではないと解するのが相当である。したがって、生理休暇を取得した労働者は、その間就労していないのであるから、労使間に特段の合意がない限り、その不就労期間に対応する賃金請求権を有しないものというべきである。また、労働基準法12条3項及び同法39条5項によると、生理休暇は、同法65条所定の産前産後の休業と異なり、平均賃金の計算や年次有給休暇の基礎となる出勤日の算定について特別の扱いを受けるものとはされておらず、これらの規定に徴すると、同法67条は、使用者に対し生理休暇取得日を出勤扱いにすることまでも義務づけるものではなく、これを出勤扱いにするか欠勤扱いにするかは原則として労使間の合意に委ねられているものと解することができる。
 ところで、使用者が、労働協約又は労働者との合意により、労働者が生理休暇を取得しそれが欠勤扱いとされることによって何らかの形で経済的利益を得られない結果となるような措置ないし制度を設けたときには、その内容いかんによっては生理休暇の取得が事実上抑制される場合も起こりうるが、労働基準法67条の上述のような趣旨に照らすと、このような措置ないし制度は、その趣旨、目的、労働者が失う経済的利益の程度、生理休暇の取得に対する事実上の抑止力の強弱等諸般の事情を総合して、生理休暇の取得を著しく困難とし同法が女子労働者の保護を目的として生理休暇について特に規定を設けた趣旨を失わせるものと認められるのでない限り、これを同条に違反するものとすることはできないというべきである。
 右の事実関係の下においては、Y社が精皆勤手当を創設し次いでその金額を2倍に増額したのは、所定の要件を欠く生理休暇及び自己都合欠勤を減少させて出勤率の向上を図ることを目的としたものであって、生理休暇の取得を一般的に抑制する趣旨に出たものではないとみるのが相当であり、また、同手当の算定にあたって生理休暇の取得日数を出勤不足日数に算入することにより労働者が失う上記のような経済的利益の程度を勘案しても、かかる措置は、生理休暇の取得を著しく困難とし労働基準法が女子労働者の保護を目的として生理休暇について特に規定を設けた趣旨を失わせるものとは認められないから、同法67条に違反するものとはいえず、また同法1条2項、13条に違反するものでもない。そして、右の措置により精皆勤手当を減額することが、生理休暇取得者に対し減給の制裁を定めたものといえないことはもとより、懲罰、損害賠償の予約と同視すべきものともいえないから、これをもって同法91条に違反するということはできない。

 

過去問

rkh2307E労働基準法第68条は、生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求したときは、その者を生理日に就業させてはならない旨規定しているが、その趣旨は、当該労働者が当該休暇の請求をすることによりその間の就労義務を免れ、その労務の不提供につき労働契約上債務不履行の責めを負うことのないことを定めたにとどまり、同条は当該休暇が有給であることまでをも保障したものではないとするのが最高裁判所の判例である。
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rkh2006E労働基準法第68条は、生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求したときは、少なくとも月に1日は有給で休暇を与えなければならないとしている。
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rkh0501D使用者は、生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求したときは、その者を生理日に就業させてはならないが、休暇中の賃金については、労働契約、労働協約又は就業規則で定めるところにより、支給しなくても差し支えない。
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