ノース・ウエスト航空事件

ノース・ウエスト航空事件

昭和62年7月17日最高裁判所第二小法廷
ストーリー
 労働者Xらは航空会社Y社の従業員であったが、その所属する労働組合は、一部の地上勤務労働者を正社員にすることを要求し、部分ストライキを実施した。 
 Y社は、このストライキによって、空港における地上作業が困難となったため、予定便数の変更と路線変更を行い、労働者Xらの就労が必要なくなったとして、休業を命じ、休業期間中の賃金を支払わなかった。
 労働者Xらはストライキによる休業はY社の責任として、民法536条2項による賃金の支払、又は労働基準法26条に基づく休業手当の支払を求めて訴えを提起した。

ストライキで飛行機が飛ばせません。

仕事がないので休業して下さい。

賃金も支払いません。

私はストライキに参加していません。

会社側の事情で労働できないのだから

賃金または休業手当を支払って下さい。

ストライキは法律で認められた権利。

その結果、あなたの仕事がなくなったのは

会社の責任ではない。

会社が少し譲歩すれば、

ストライキ回避できたんだから、

わたしの賃金は支払ってよ……。

 結 論  労働者Xら敗訴
 部分ストライキにより、ストライキに参加しなかった労働者が労働することができなった場合には、ストライキは、特別の事情がない限り、民法536条2項の「債権者の責に帰すべき事由」には該当しないため、労働者Xらの賃金請求権は認めない。又、労働基準法の「使用者の責に帰すべき事由」にも当たらないため、休業手当の請求権も認めない。
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部分ストにより、スト不参加労働者が労働できない場合、賃金等を受け取れるか。

 企業ないし事業場の労働者の一部によるストライキが原因で、ストライキに参加しなかつた労働者が労働をすることが社会観念上不能又は無価値となり、その労働義務を履行することができなくなつた場合、不参加労働者が賃金請求権を有するか否かについては、当該労働者が就労の意思を有する以上、その個別の労働契約上の危険負担の問題として考察すべきである
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 企業ないし事業場の労働者の一部によるストライキが原因で、ストライキに参加しなかつた労働者が労働をすることが社会観念上不能又は無価値となり、その労働義務を履行することができなくなつた場合、不参加労働者が賃金請求権を有するか否かについては、当該労働者が就労の意思を有する以上、その個別の労働契約上の危険負担の問題として考察すべきである。

「危険負担」の問題って、

どういうことですか?

売買契約などにおいて、契約成立後に目的のものが、

売り主の責に帰すべからざる事由で滅失したようなときに、

この危険(リスク)を誰が負担するのかということです。

【危険負担】
双務契約(売買契約など)において債務者の責めに帰すべき事由によらず債務が履行できなくなった場合に、他方の債務(反対債務)も消滅するか否かという問題
【債務者主義】
売り主(債務者)の債務が消滅した場合、買い主(債権者)の債務も消滅するという立場(債務者が危険を負担する)。賃貸借契約において、家屋が消失した場合には、借り主の賃料支払債務も消滅するため、債務者主義をとっている(民法534条2項)。※雇用契約もこの条項の対象となる。
【債権者主義】
売り主(債務者)の債務が消滅した場合であっても、買い主(債権者)の債務は存続するという立場(債権者が危険を負担する)。特定物(不動産や骨董品など)の売買においては、債権者主義をとるのが民法の原則(民法534条1項)。
民法第534条 
1 特定物に関する物権の設定又は移転を双務契約の目的とした場合において、その物が債務者の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、その滅失又は損傷は、債権者の負担に帰する。
2 不特定物に関する契約については、第401条第2項の規定によりその物が確定した時から、前項の規定を適用する。
 
 労働者の一部によるストライキが原因でストライキ不参加労働者の労働義務の履行が不能となつた場合は、使用者が不当労働行為の意思その他不当な目的をもつてことさらストライキを行わしめたなどの特別の事情がない限り、右ストライキは民法536条2項の「債権者ノ責ニ帰スヘキ事由」には当たらず、当該不参加労働者は賃金請求権を失うと解するのが相当である
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 労働者の一部によるストライキが原因でストライキ不参加労働者の労働義務の履行が不能となつた場合は、使用者が不当労働行為の意思その他不当な目的をもつてことさらストライキを行わしめたなどの特別の事情がない限り、右ストライキは民法536条2項の「債権者ノ責ニ帰スヘキ事由」には当たらず、当該不参加労働者は賃金請求権を失うと解するのが相当である。

 
 

 

話はまだ続き、民法536条2項に言及されています。

民法536条2項にはなんて

書いてあるのですか?

 

債務の履行(労働力の提供)が、「債権者(使用者)の責めに帰すべき事由によつて不可能となった場合」には、債務者(労働者)は、反対給付(賃金)を受ける権利を失わない、と書いてあります。

 
 
 
民法第536条 
1 前2条に規定する場合を除き、当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を有しない(ノーワーク・ノーペイ)。
2 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。

労働基準法の「休業手当」を受け取れることはできないか。

 労働基準法26条が「使用者の責に帰すべき事由」による休業の場合に使用者が平均賃金の6割以上の手当を労働者に支払うべき旨を規定し、その履行を強制する手段として付加金罰金の制度が設けられているのは、右のような事由による休業の場合に、使用者の負担において労働者の生活を右の限度で保障しようとする趣旨によるものであつて、同条項が民法536条2項の適用を排除するものではなく、当該休業の原因が民法536条2項の「債権者ノ責ニ帰スヘキ事由」に該当し、労働者が使用者に対する賃金請求権を失わない場合には、休業手当請求権と賃金請求権とは競合しうるものである。
 
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 労働基準法26条が「使用者の責に帰すべき事由」による休業の場合に使用者が平均賃金の6割以上の手当を労働者に支払うべき旨を規定し、その履行を強制する手段として付加金罰金の制度が設けられているのは、右のような事由による休業の場合に、使用者の負担において労働者の生活を右の限度で保障しようとする趣旨によるものであつて、同条項が民法536条2項の適用を排除するものではなく、当該休業の原因が民法536条2項の「債権者ノ責ニ帰スヘキ事由」に該当し、労働者が使用者に対する賃金請求権を失わない場合には、休業手当請求権と賃金請求権とは競合しうるものである。

 
【競合】
単一の事実または要件について、評価あるいはその効果が重複すること。

※建造物に火をつけると、「放火罪」と「建造物損壊罪」が競合するが、現実には、放火罪の適用だけを受ける。(吸収関係)
※他人の物を横領する行為は、「横領罪」と「背任罪」が競合するが、横領罪の成立を 認めれば、背任罪を適用する余地はない。(択一関係)

 
 休業手当の制度は、右のとおり労働者の rkh21C  という観点から設けられたものではあるが、賃金の全額においてその保障をするものではなく、しかも、その支払義務の有無を使用者の帰責事由の存否にかからしめていることからみて、労働契約の一方当事者たる使用者の立場をも考慮すべきものとしていることは明らかである。そうすると、労働基準法26条の「使用者の責に帰すべき事由」の解釈適用に当たつては、いかなる事由による休業の場合に労働者の rkh21C  のために使用者に前記(同法第26条に定める平均賃金の100分の60)の限度での負担を要求するのが社会的に正当とされるかという考量を必要とするといわなければならない
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 休業手当の制度は、右のとおり労働者の生活保障という観点から設けられたものではあるが、賃金の全額においてその保障をするものではなく、しかも、その支払義務の有無を使用者の帰責事由の存否にかからしめていることからみて、労働契約の一方当事者たる使用者の立場をも考慮すべきものとしていることは明らかである。そうすると、労働基準法26条の「使用者の責に帰すべき事由」の解釈適用に当たつては、いかなる事由による休業の場合に労働者の生活保障のために使用者に前記(同法第26条に定める平均賃金の100分の60)の限度での負担を要求するのが社会的に正当とされるかという考量を必要とするといわなければならない。

 
 
 労働基準法26条の「使用者の責に帰すべき事由」とは、取引における一般原則たる過失責任主義とは異なる観点をも踏まえた概念というべきであつて、民法536条2項の「債権者ノ責ニ帰スヘキ事由」よりも広く、使用者側に起因する経営、管理上の障害を含むものと解するのが相当である
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 労働基準法26条の「使用者の責に帰すべき事由」とは、取引における一般原則たる過失責任主義とは異なる観点をも踏まえた概念というべきであつて、民法536条2項の「債権者ノ責ニ帰スヘキ事由」よりも広く、使用者側に起因する経営、管理上の障害を含むものと解するのが相当である。

 

過去問

rkh2604B労働基準法第26条の定める休業手当の趣旨は、使用者の故意又は過失により労働者が休業を余儀なくされた場合に、労働者の困窮をもたらした使用者の過失責任を問う、取引における一般原則たる過失責任主義にあるとするのが、最高裁判所の判例である。
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rkh2401C最高裁判所の判例によると、労働基準法第26条の「使用者の責に帰すべき事由」は、取引における一般原則たる過失責任主義とは異なる観点をも踏まえた概念というべきであって、民法第536条第2項の「債権者の責めに帰すべき事由」よりも広く、使用者側に起因する経営、管理上の障害を含むものと解するのが相当であるとされている。
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rkh1701E最高裁の判例によると、労働基準法第26条の「使用者の責に帰すべき事由」は、取引における一般原則たる過失責任主義とは異なる観点をも踏まえた概念というべきであって、民法第536条第2項の「債権者の責めに帰すべき事由」よりも広く、使用者側に起因する経営、管理上の障害を含むものと解するのが相当であるとされている。
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rkh21C3 休業手当について定めた労働基準法第26条につき、最高裁判所の判例は、当該制度は「労働者の rkh21C  という観点から設けられたもの」であり、同条の「『使用者の責に帰すべき事由』の解釈適用に当たっては、いかなる事由による休業の場合に労働者の rkh21C  のために使用者に前記〔同法第26条に定める平均賃金の100分の60〕の限度での負担を要求するのが社会的に正当とされるかという考量を必要とするといわなければならない」としている。
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生活保障

 

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